箱根の美術館

たくさんの饅頭屋が軒を連ねる箱根へ、職場の懇親会で行った。温泉地で宿泊して宴会、という今ではもう珍しくなってきた、典型的な社員旅行だ。しかし私の職場でも、今年あたりが最後かもしれない。

実は関東に住んで13年になるが、箱根に行くのは始めてだ。小田原から乗り入れた小田急で終点まで行くと、そこが箱根湯本、箱根の入り口だ。ロマンスカーから続々とおりてくる御婦人方は、みな銀座にでもでかけるような「おめかし」をしている。単なる田舎の観光地ではない、そういう場所なのだろう。

金曜の夜にホテルに泊まって解散なので、土曜日に同僚とともに箱根の美術館をいくつか見る事にした。ご存じの通り、箱根には大小取り混ぜて多数のミュージアムが点在している。

最近、ピカソ専用の施設ができた彫刻の森美術館も良かったが、一旦入ると見終わるのに長くかかるという事だったので、昨年開館して一度は行ってみたかったポーラ美術館に行く事にした。

http://www.polamuseum.or.jp/


箱根登山鉄道スイッチバックで強羅まで行き、そこから施設巡回バスに乗り、ポーラ美術館前まで約1時間ほどかかった。まわりは人家のない山奥といった所に、ガラス張りの美しい建物が崖に貼付くように存在する。色付きはじめた広葉樹の間のエントランスを入って行くと、エスカレーターが下へと伸びている。

展覧会はベル・エポックの企画展だった。ベル・エポックは「美しい時代」という意味のフランス語で、印象派以降、第一次大戦までの、疲弊する前のヨーロッパを表す。プルーストの『失われた時を求めて』の時代である。といっても私は読んでいないが。

あまり期待していなかったのだが、良品が揃っていて驚いた。私はドガシャガールが印象に残っている。モネの「バラ色のボート」や、岡田三郎助の「あやめの衣」なども、実はここにある。実物を見るのは始めてだったが、実に鮮やかで素晴らしい。一緒に行った同僚は黒田清輝の「野辺」が気に入ったと言っていた。ポーラグループのオーナーが集めた物らしい。とんでもない金持ちだね。

http://www.polamuseum.or.jp/collection/collection2.html


アレイという名前の併設のレストランで昼を食べた。やたらにお洒落な白を基調にしたレストランで、ご婦人方向けに細かい所まで気を配っているのがわかる。我々三人は企画展にちなんだ「ベル・エポック コース」を食べた。『失われた時を求めて』に出てくる料理を再現したコース料理である。比較的古いスタイルのフランス料理でおいしかった。最後にちゃんと菩提樹の花のハーブティーとプチマドレーヌが出てきたので、浸して食べたが、お坊っちゃんプルーストと違って、特段子供の頃の事は思い出さなかった。同僚は牛乳にひたしたパンだったら思い出すかな、と言っていた。

ポーラ美術館を出た我々三人組は、バスで3つほどの近くにある「箱根☆サン=テグジュペリ星の王子さまミュージアム」へ向かう事とした。

http://www.lepetitprince.co.jp/mus_index.htm


バスから降りると何やらちまちまとした南フランス風な建物がエントランスである。入り口前には直径2mほどのB612のブロンズ像があり、側で自動シャボン玉機がシャボン玉を作り続けている。予備知識なしで行った我々は小さな施設かと思っていたが、思ったよりずっと広かった。南フランス風の町並みを再現したミニサイズのテーマパークである。

くねくねと曲がる地理学者通りを行くと、点灯夫の広場に出る。なんか奇妙な感じだ。ジオラマがちょっと小さめに作ってあるせいだ。変な所に来た、という感じか。最初に映像ホールで、星の王子さまを題材にした短い映画を見たが、これは見なくてもよかった。

さてミュージアムはどうなっているのかというと、サン=テグジュペリの一生を追体験できるようになっているのだった。金遣いが荒く、冒険好きな、家柄の良いぼっちゃんの波瀾万丈な人生である。「星の王子さま」はその彼の人生のエッセンスが反映されたもの、といった扱いになっていた。子供の頃の部屋を再現したものや、アルゼンチン時代のオフィスを再現したものなど、かなり金をかけてしっかり作られている。また彼の遺品も多数展示されていて、こんな所にあって良いのか、と思った。

星の王子さま」の世界のジオラマを通って、外で出てみると、南仏風の町並みの中に、街頭テレビが置かれていて、会場案内のビデオが姦しくさえずっている。テーマパークのコンセプトと、必ずしも儲かってはいなさそうな運営方針が妥協し合っている感じがして、ちょっとやな感じがした。

ポーラ美術館は機会があれば、また行きたい。星の王子さまミュージアムは他の美術館のついでになら、また来ても良いと思った。また、もし次回があれば彫刻の森と、ガラスの森に行ってみたい。


2003/10/28
few01