Book

星ぼしの荒野から

J.ティプトリーJr ティプトリー晩年の短編集である。千歳烏山図書館で、文庫をパラパラとめくっていて、読むのをやめられなくなって借りた一冊。原題は"Out of the everywhere: and other extraordinary visions"である。副題にあるように、普通のレベルを越…

航路

コニー・ウィリス ジャンルはSFだろうが、ミステリーと言ってもいいかもしれない。SF味は薄い。上下巻で1300ページもあるが、会話が主体で、ドラマのERのように話がどんどん展開するので、苦なく読める。色々な意味で面白い読ませる小説だ。読み応えのある面…

パリ左岸のピアノ工房

T.E. カーハート (著), Thad E. Carhart (原著), 村松 潔 (翻訳) 「面白い本」という言い方には、いろいろなニュアンスが含まれている。それは「おいしい料理」にもさまざまな言い含みがあるのと同じだ。まず、夢中になって楽しめる小説や、ドキドキさせてく…

異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念

チャールズ サイフェ (著), 林 大 (翻訳) 最近、数学読み物にはまっていて、色んな本を読んでいる。この本は、ゼロの登場から現代に至るまでの、ゼロのさまざまな影響をスリリングに描いている。「ゼロは魚雷のように米国の軍艦ヨークタウンを襲った」という…

本を読む本

M.J.アドラー、C.V.ドーレン著、外山滋比古、槇未知子訳 原書は、“How to Read a Book” (1940年出版)、訳出は1978年だ。本の読み方を指南している。それも、「読むに値する良書を、知的かつ積極的に読む規則を述べた」本だ。フィクションの読み方も第三部で…

西田幾多郎<絶対無>とは何か

永井均 とは何か (シリーズ・哲学のエッセンス)" title="西田幾多郎 とは何か (シリーズ・哲学のエッセンス)" class="asin">私は哲学の本を読むのが好きです。なので色々手を出してはいます。ただ西田幾多郎はさっぱり分からなかった。この本の冒頭でも書か…

やさしさの精神病理

大平健 森氏の本にも引用されている1995年発行の岩波新書、名著です。ベストセラーになったように記憶していますので、既読かもしれません。精神科医の著者が、病院を訪れた数人を題材に、昔とは違う現代的な「やさしさ」について語っています。もう13年も前…

ほんとうはこわい「やさしさ社会」

森真一 ヒット作続出の注目新書であるちくまプリマー新書から一冊読みました。もし私が中高生だったら、プリマー新書を全冊読破、とかやってしまいそうだな。最近の若い人、特に大学生と話すときに、なんか妙な違和感を感じていました。良くわからなかったの…

『土曜日』

イアン・マキューアン 大分に行く時、羽田で買った。本には出会いってのがあるんだと痛切に感じさせた一冊。これはすごい。ロンドンに住む、ある脳外科医の土曜日一日を描いた本。ちょっとググればわかるように、多くの人が影響を受けている。340ページ、厚…

ホワイトヘッドの哲学

中村昇 じゃぁ、人間の眼は簡単にだまされる、オンボロなのか、というと、話はそう単純ではない。例えば、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色に反応する眼を持っていたとする。そうすれば、もっと正確に色を見ることができる。ところが数が増えると色々と問題が出…

錯覚する脳 -「おいしい」も「痛い」も幻想だった-

前野隆司

錯覚する脳とホワイトヘッド(その4)

錯覚する脳とホワイトヘッド(その3) 人間の目と色

これまで赤いとか青いとか言っていたけれど、それは、人間が見てそう思う、ということだ。人間の目を無視して色を名づけることはできない。「700nmの波長の光」と「人間の頭の中の赤」が一致しているから、700nmの光は赤い、ということになる。ここで三原色…

錯覚する脳とホワイトヘッド (その2) 物の色

真っ暗な部屋の中だと物は見えない。見えるのは自分から光を出している物、つまり明かりだけだ。部屋の電気をつけると物が見える。だから物の色は、明かりから出た光が、物の表面や内側で反射した光の色だとわかる。では物の色は、明かりの色と同じか、とい…

錯覚する脳とホワイトヘッド (その1) 明かりの色

明かりに色があることは誰でも知っている。太陽の光は白く、真夏などは青白いと思えるほどだ。もちろん眩しさ、光の強さもあるが、色もある。朝や夕方は赤い。赤黄色いという感じか。季節や天気、空気によってずいぶん色は変わる。冬の関東の朝夕の太陽は格…

非属の才能

山田玲司 「非属」というのは、群れに属さない、という意味だ。最初のページに以下のように書かれている。 ・「空気が読めない奴」と言われたことのあるあなた ・まわりから浮いているあなた ・「こんな世の中おかしい」と感じているあなた ・本当は行列なん…

東京奇譚集

村上春樹 実を言うと、村上春樹を最後まで読み通したのは初めてだ。以前『世界の終わりと、ハードボイルドワンダーランド』を友人から薦められて、半分まで読み挫折した経験がある。その後も、数ページ読んだ小説はいくつもあるが、読み終わった事が無い。読…

それでも自転車に乗り続ける7つの理由

疋田智 もう一度、自転車に乗ろうと思っている。すでに廃車寸前の古い自転車は粗大ゴミに出して、来年春、自転車を買うことを目指している。この本が、そのきっかけだ。著者は、TBSのディレクターで、毎日、自転車で24kmの通勤をしている。その道(自転車ツ…

夫婦って何?「おふたり様」の老後

三田 誠広 近所の本屋に行ったら、ベストセラーの棚のトップに上野千鶴子の『おひとりさまの老後』という本が並んでいた。タイトルは、この三田の本のパクリだな。しかし、おひとりさまの老後についても、もちろん色々と考えておくべきことは多いだろう。こ…

日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか

内山節 1965年まで日本人は、全国各地で、キツネにだまされていた。しかし1965年以降、日本人は一切キツネにだまされなくなった。著者は、山野を巡って釣りをするのが趣味で、いまは群馬県上野村に家を持つ。彼は山村で村人から、キツネにだまされた、という…

早起きで人生が変わる! -より輝いた自分になる50の方法-

中山庸子 しばらく前から、朝早めに出勤するようにしている。いまは家と職場が近いので、特別な努力をしなくても、朝早く行くのは難しくない。そして、早朝出勤と合わせて、早起きを習慣づけたいと思っている。ただ、こちらは、必ずしも上手くいっていない。…

老人とカメラ -散歩の愉しみ-

赤瀬川原平 あいかわらず写真を撮るのが好きだ。まぁ、それでも、重たいカメラを担いで撮影しようという気には、もうなかなかなれない。小さなデジカメをポケットに入れて散歩するのがせいぜいだ。でも、愛用のHEXARを持ってゆけば、写真を撮るのはずっと楽…

生物と無生物のあいだ

福岡伸一 今年(2007年)の新書界でのニュースともなった一冊である。面白い上に、深みがあり、色々な事を考えさせられる。バイオ関連の専門的な内容が盛り込まれているが、かなり間口を広く、敷居を低くしてあるので、科学に興味のある人なら理解し、読み通せ…

幼年期の終わり

アーサー・C・クラーク (光文社古典新訳文庫) 池田 真紀子 (翻訳) 光文社古典新訳文庫の最新リリースとして、『幼年期の終わり』が刊行された。私が最初に『幼年期の終わり』を読んだのは、たしか高校生の時で創元の沼沢訳だった(Over Loadが上主と訳されて…

ローマ人の物語『終わりの始まり』29巻〜31巻

塩野七生 この巻は、五賢帝の五人目、マルクス・アウレリウスから語り始められている。塩野氏が上手いのは、どの本を読んでも、その本で取り上げられている人に興味を抱かせるという点だ。ローマ「人」の物語、と言う通り、人が中心の歴史物なんだな。ハドリ…

パプリカ

筒井康隆 私の友人に、素面のときは大変にこやかで真面目な紳士だが、酒が入ると驚くほど雄弁に卑猥な妄想を語る人がいる。その妄想を聞きながら、なんだか懐かしいな、と思っていたが、そうだ筒井康隆の小説がまさに妄想小説だったのだと思い出した。今敏が…

ぼくらの七日間戦争

宗田理 初版発行は1985年だ。1985年といえばバブル、トピックを列挙すると 北の湖、柔道の山下が引退 夏目雅子が死去 8時だよ全員集合終了 つくば万博 電電公社がNTTに 専売公社がJTに 芦屋市幼児誘拐事件 ゴルバチョフ書記長就任 東北新幹線の大宮--上野間…

神童

さそうあきら 八百屋の息子で、音大浪人中の和音(ワオ)が、野球が好きな小学生の天才ピアニスト「うた」と出会って、共に成長する漫画だ。うたが、八百屋でリンゴを選んでもらっている。ワオの親父がリンゴを指で弾いて、これがうまいと薦める。ワオも指で弾…

ドミノ

恩田陸 夏になると各出版社が夏休み向けに文庫フェアを開始する。すでに読んだ本、名作だが読んでない本、昨年話題になった本などいろいろ並んでいて、セレクションにこめられた各社の狙いが見えて面白い。集英社は『こころ』『銀河鉄道の夜』『友情』の表紙…

豆つぶほどの小さないぬ

佐藤さとる 私は佐藤さとるの書く話が大好きで、出版されている本はほとんど読んでいる。ファンといってもいいかもしれない。ファンというのは、往々にして「あばたもえくぼ」に陥りがちで、この文章も割り引いて読んでいただいた方がいいだろう。彼の代表作…