言い訳と先読み -考えるな感じろ-

言い訳と先読み -考えるな感じろ-

 

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スポーツや格闘技を扱ったマンガやドラマで、「考えるな感じろ」という言葉が時々出てくる。例えば、松本大洋の「ピンポン」で、ペコに対し、オババが「頭使うな」と言ったのを思い出す。

 

頭とか、考えるとかいうのは、大脳皮質、意識、に関わる脳活動である。

 

「脳の表面部分は大脳皮質と呼ばれ、前頭葉頭頂葉・側頭葉・後頭葉と左脳、右脳の各部に分類することができます。左脳、右脳は脳梁でつながっています。人間の思考などの中枢。大脳皮質の内側は白質と呼ばれ、大脳皮質の神経と他の神経をつないでいます。人間の知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、高次機能を司る人間が生きていくうえで必要な事柄の司令塔。脳部位によってそれぞれ請け負っている役割が異なっています。」

from「大脳皮質のおはなし」https://akira3132.info/cerebral_cortex.html

 

 大脳皮質の機能は、「言い訳」と「先読み」と要約することができる。

  言い訳とは、外界と内界(情動や身体)の情報に対して、なるべく矛盾の無い世界観を構築することを言う。知覚、記憶、思考が関連している。

  先読みとは、それらの世界観を踏み台に、時間的に先の予想を立てて、行動を計画することを言う。思考、推理、随意運動が関連している。

  人間以外の小さな脳を持つ生物は、これら大脳皮質が小さい。とはいえ、特段生きることに不自由している訳ではない。つまりは、後付けで発達した特殊な脳だということだ。

 

 AI研究の言葉で言うと、言い訳は、モデリングと言える。慣れとか、会得といったレベルの感覚的モデリングから、法則の発見と数式による記述といったレベルの記号的モデリングまで、実に多様かつ複雑なモデリングを人間は行える。

  この、一貫性を保とうとする力の強さは信じられないほどだ。少々の矛盾はねじ伏せて、あたかも継ぎ目の無い、一貫した世界が自分の周りにあるかのように感じる。

  一方で、先読みは、予測、仮説構築、といった言い方ができる。右にハンドルを切れば、車が右に曲がるといった確実な未来は、常に予測されている。さらに、新しい法律を作ると、社会がどう変わるだろうか、といった複雑な候補検討も一種の先読みである。これも言語や数式を使えることで、かなり先の未来予測、大幅に多様な仮説構築、が可能となった。

 

 ところが、自分自身の行動推進という、生活していく上で重要な活動に関して言うと、これら大脳皮質の能力が、時に邪魔をする。身動きが取れなくなる。

  言い訳と先読みが、うまく連携できている範囲の活動に関しては、効果的に機能するのだが、そこから外れる要素が入ってきた時や、新しい要素を入れなければならない時に、ある種のトラップに入り込んでしまう。

 

(a) 例えば、今まであまりやったことの無い行動に、踏み出す必要が生じた時。(例:チャレンジ)
(b) 例えば、気持ちをかき乱す誘惑や邪魔が多数入る状況で、一つのことに集中する必要が生じた時。(例:片づけ)
(c) 例えば、ガードしていない所にパンチが入るような外乱が来た時。(例:本当のことを言われた)
(d) 例えば、知らず知らずやってしまう習慣行為が活動を支配していて、大事だと思っているのに先延ばししてしまうような時。(例:スマホ使いすぎて夜更かし)

 

こういった、私たちが現代社会で始終遭遇する状況に対し、言い訳と先読みが悪い影響を与える。

 

上記aだと、先読みが効かないため、リスクを過大に評価して、怖気づき、他にやることがたくさんある、と言い訳をし、自分の世界の一貫性に固執するようになる。たしかに、ジャングルの中で危険地帯に入ったり、見慣れない食べ物に手を出すことは避けないと、死に近づく。が、概ね安全で、セーフティーネットもあるような現代社会の状況でも、同じ反応をしがちである。

 

bだと、誘惑や邪魔に、いちいち反応して、それぞれに言い訳と先読みを行ってしまい、脳をそれらの活動で支配させて、事前に計画した行動の優先度を容易に下げてしまう。先読みにとっては短時間の効能や被害ほど重要であり、一週間後や、一か月後といった先の結果の優先度は容易に下がり得る。いま生き延びることが大事という基本メカニズムが支配する。

 

cは、パンチによって、言い訳が効かない状態に陥るため、無理やりに脳内モデルに合わせて世界を歪ませてしまう。聞こえなくなる、見えなくなる。パンチをくらった痛みを忘れようとすらする。言い訳をムリに拵える。パンチから、まず回避する。遠ざける。自分の世界の再構築には大きなリスクと労力が必要である。再構築の経験が無いと、単にリスクが大きいだけだと逃げる。

 

dは、言い訳と予測がループを描いている心地よい世界から抜け出せなくなる。時々、こんなことではと思いはするが(この脳のリスク回避機能はすごい)、すぐにループに戻ってしまう。小さな予測と報酬の罠に囚われ続ける。

 

これらの罠に入らないようにするには、より具体的・感覚的なレベルの対策と、より抽象的・メタ認知的なレベルの対策との両方が必要である。

 

前者は「感じろ」とか「いまに集中しろ」であり、

後者は「自分を外側から観察しろ」とか「書き出せ」である。

 

これら対策については多数の書籍がある。また、人によって具体的なメソッドは違うだろう。

 

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以上の考察は、ライフハックの一種として整理したもので、一般性や根拠は薄弱である。


以上