おおきく振りかぶって

ひぐちアサ

おおきく振りかぶって (1)おおきく振りかぶって (2)おおきく振りかぶって (3)おおきく振りかぶって(4) (アフタヌーンKC)おおきく振りかぶって(5) (アフタヌーンKC)おおきく振りかぶって(6) (アフタヌーンKC)おおきく振りかぶって(7) (アフタヌーンKC)おおきく振りかぶって(8) (アフタヌーンKC)


おおきく振りかぶって』の8巻までを一気に読んだ。西浦高校という公立校に発足したばかりの1年生だけの硬式野球部の話だ。主人公のピッチャーの性格が弱弱というのは珍しい。

この漫画の特徴は、登場する野球少年たちがヒーローからほど遠いということだ。一般的に見て良いところが少なくて、性格が曲がっていたり、体が小さかったり、コミュニケーションが下手だったり、勉強ができなかったり、野球の能力自体も決してすごくはない。それが女性監督のモモカン(この人も欠点ありまくりなのだが)と一緒に、チームとして、一人一人の少年として成長してゆくのが、笑って楽しめるように描かれている。

モモカンを代表として、出てくる人物が義務感、責任感、切迫感などから自由で、野球を心底楽しんでいるのが、かなり道徳的とすら言える作品を、わくわくするエンターテインメントにしていると思う。

アニメが続いている。漫画を丁寧に映像化してあって良いと思う。漫画を読んでみるとアニメは原作を、部分的に省略したり整理して分かり易く映像化してあるのがわかった。あのアニメの監督は偉いな。ただ、原作では妙な所で膝を打つというか、関心するのだけれどアニメではそういうのは少ない。単に笑えるシーンになっている。

漫画はけっして絵もコマ割りも上手ではなくて、ネームが誰の物かわかりづらかったり、登場人物の描き分けができていなかったりする。ま、そういう多少の分かりづらさがあるせいで、読み解こうという気がする、というのもある。そうすると小さなコマや、特にドラマティックではないシーンで妙に心に残ることが書いてあったりする。例えば応援団を買って出る、主人公の昔なじみたちが野球部の練習場に来て、部員たち皆から「チスッ」って挨拶をされて妙に感動していたりする。彼自身も、俺って何でこんなに感動しているんだ、なんか変な感じだ、って思っている。こういう小さな心の動きが印象的だ。

6巻〜8巻にわたって描かれた桐青高校との試合は面白かったなぁ。夢中になって読んだ。細かく具体的な野球ネタがみっちり詰め込まれていて臨場感があった。小雨の降る中で、彼らと一緒に、9回まで一緒に試合に参加しているような気がした。この試合はアニメでも、何回にも渡って、きっちり描かれていた。見事だ。久しぶりに野球漫画、アニメの傑作に出会った。