グレゴリー・バーサミアン展


彫刻アニメーション 夢のリアリティ
グレゴリー・バーサミアン展
2000年7月28日(金)〜9月10日(日)
NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]
http://www.ntticc.or.jp/Calendar/2000/Gregory_Barsamian/index_j.html


ICCに行ったことのある人ならば、ご存じかと思いますが、円周上に少しづつ形が変化した彫刻を配置して、回転させ、ストロボを明滅させることで、まるで彫刻が目の前で形を変えて行くような作品があります。(ジャグラー

それを作ったのがグレゴリー・バーサミアンで、今回は彼の初期の作品から最新作まで15作品が一堂に介した展覧会です。

15作品ありますが、原理はどれもまったく同じで、どれもぐるぐる、というかブンブン回っています。一秒あまりで一回転しますので、大きな作品だとけっこう風が来ます。近くによると危険なので柵があります。

原理が同じなので、結局どういう素材を見せるかということになるのですが、例えば40歳という作品では、

「誕生日を祝うはずのバースデイ・ケーキが、恐ろしい顔に変貌します。それは、見た者を石に変えてしまうというメドゥーサの顔です。ケーキのろうそくは、メドゥーサの蛇の髪の毛へ変わります。」(ICC ホームページより)

てな感じです。これはちょっと怖い。半分くらいは怖くない、楽しいもので、残りはちょっと怖い。

これらの作品の不思議さは、どういう所にあるかというと、それが完全な立体だ、ということです。見る間に形を変えて行くバースデイ・ケーキは、見間違いようのない立体です。

例えば映画はどんなに精巧にCGが作られていても、立体ではありません。平面です。最近のCGは本当に良くできていますが、それから立体をイメージしているのは、私の想像力にすぎません。

立体映画というのもあります。新宿のIMAXシアターなどがその代表でしょうか。最近はどこのアミューズメント施設にいってもあります。しかしあれは確かに右と左の目に違う像が映っていますが、残念ながらいくつかの点で実際の立体と違います。

まず焦点距離が一定です。つまり見せかけのスクリーンまでの距離は、レンズ系の光学距離で決まるので、変化しないわけです。実世界では遠い物を見るときはピントを絞って、近い時は開きます。

また視野角が固定されています。人間の場合は、近くのものを見るときは目が寄りますが、立体映画では視野角が固定されています。これによって、近くと遠くでの両眼で重ねて見れる視野範囲がかなり狭くなってしまっています。

そして最大の難点は、頭を動かしても立体の裏側は見れないということです。

最新のVRではこの最後の課題はクリアされつつあります。また1番目と2番目をクリアする研究も出つつありますが、まだまだ一般的ではありません。まだ見ぬ映像世界と言って良いと思います。

それが、このグレゴリー・バーサミアンの作品ではあっさりとクリアされてしまっています。もちろん表示できる範囲が限られていますし、自由に変形することはできませんが。

彼の作品では、壁に映る影もちゃんと変形します。これにはかなり打ちのめされます。明滅する光の中で見ているという以外は、まったく完全な立体変形になっているのです。

頭のどこかで、バースデイ・ケーキがメドューサに変わる訳がない、と思いながら、それが少なくとも視覚的にはまったく完璧な形で提示されているのを知覚してしまう、このぐらぐらする感覚。これこそが彼の作品の持つ魔力でしょう。

ヘリポートに着陸しようとする白いヘリコプターが天使に変わる「プッティ」とか、壁の絵の中の人物が放り投げる紙屑が部屋の中でバウンドして消え去る、最新作の「無題」など、いずれも大変印象的ですが、ここでは一緒に行った同僚と意見を同じくしてもっとも印象的だった作品の事を話して終わりにしましょう。

それは「ツー・ステップ」という作品です。

3mほどある一番上の所で青い手が写真を真ん中から二つに破ります。写真には踊っている男女が写っており、男性側が破られてひらひらと下へ落ちて行きます。落ちながら丸まって、それはいつのまにやらグラスに入った牛乳になります。グラスは小テーブルに落ちて、牛乳はこぼれ、再び写真の片割れになり、ひらりひらりと一番下にある、女性の写っているもう片割れの写真にくっついて一枚の写真に戻ります。

なんとも言えない暖かいファンタジーを感じることができる作品で、ずっと眺め続けていました。


2000/8/14
few01