青~chong~

小田急線の新百合ヶ丘駅付近で毎年開かれている映画祭がある。ことし第6回が開かれた。毎年気になってはいたのだが、今年はたまたま新百合ヶ丘へ丁度良いタイミングで行くことがあって、一部を見ることができた。

見たのは10/9の午後から新百合21ホールで上映された、ジュニアワークショップのメーキングビデオと、日本映画学校の卒業制作2本だ。


ジュニアワークショップというのは中学生が映画を作る講習会のようなものらしい。夏休み前に募集があって、応募者が集まって作る。講師や機材は日本映画学校が面 倒を見る。撮影はビデオカメラを使っているが、ちゃんとしたマイクで録音して、俳優さんも出る。とかいいながら、中学生が作った作品は朝からの放映だったので私は見ていない。 メーキングはしんゆり映画祭スタッフ(近所のお母さん達?)が作成したもの。それを見る限りけっこうマジでちゃんと作っている。個人的には、あぁおれも中学生だったら参加したかったなぁ、と思った。うらやましい。カメラの使い方、マイクの動かし方など基本技能からはじめて、子供達が共同でシナリオを作り配役を決めていた。なかなかメーキングビデオ自体も良いできで、楽しんでいたのだが、30分ほどでぷつりとグレーになって消えてしまった。機材の不調か、と思った。しかしすぐ後に登場した制作者によって、完成までこぎ着けなかった事が知らされた。 しきりに詫びていたが、こういうのも、なかなかライブ感覚あふれて楽しい。

上映は大きなビデオプロジェクタとベータカム(?)でなされていた。映画学校の設備だろう。音は会場そなえつけの音響だと思う。いずれも映画鑑賞に十分な品質だ。朝から来て、中学生の作品も見てみたかったものだ。


次は、『セッちゃん』(1999年/16mm/58分)という映画が上映された。監督は小池里紗さん。日本映画学校の生徒さんだ。日本映画学校では毎年、卒業制作の映画が15本ぐらい作られるらしい。これは今年の作品の中で、もっとも優れていたものらしい。最初は期待していなかったし、始まってからしばらくもけっこうダルいかも、と思っていた。でも、実は、とても良い映画だった。 セッちゃんというかなりぼーっとした若い女性(知的障害があるらしい)が、未婚で子供ができて、東京から田舎の港町へ駆け落ちして、生活する話だ。全体に明るい幸せな雰囲気の映画で見ているこちらに元気が湧いてきた。セッちゃんの境遇は客観的に考えるとけっこう悲惨だが、当の本人はそんな感じがちっともない。歌ったり踊ったり、笑ったり、そんなシーンばかりが印象に残っている。学生さんなので、カメラや編集などはかなり甘いし、脚本もキレがないとは思うが、そういうのは実は問題ではないのだなぁ。特にスーパーマルショーで彼女が歌いながら踊るシーンは秀逸だった。 映画の後に、監督の小池さんと、主役の二人(日本映画学校の演劇科の卒業生)と、映画評論家であり校長先生である佐藤忠男さんによるトークショー(というか校長先生との面 接のようなもの)があった。 映画学校の雰囲気が伝わってきて興味深かった。スタッフだけで15人いたとか、俳優をどうやって探したとか、子役をどうやって選んできたとか、ロケ先に使った豪邸の話とか、制作裏話がいろいろ聞けた。


最後に見たのが『青~chong~』(1998年/16mm/54分)という映画で、監督は李相日さん。かっこいい長身のお兄さんだった。たぶん主役も彼。こちらは一昨年の卒業制作で、ニューヨークや韓国でも上映され、第22回ぴあフィルムフェスティバルのグランプリを受賞している。佐藤校長によると凱旋公演だそうで、先生も非常にほこらしげだった。こちらは初っぱなから「やるな」と思わせるできの良いもので、緊張感と映像的なキレが最後まで持続するプロの映画だ。在日韓国人の高校生の話だ。北野武を彷彿とさせるカット割やシナリオで、けっこう意識していると思われる。ただ武のフェイクではなく、十分に自分の語り口にしている。主人公の友人で野球部のキャプテンや、昔馴染みの女生徒、途中から入ってくる野球の下手な部員など、脇役もかなり優れていて、水がしたたるようなフレッシュな演技がまぶしかった。シナリオも在日韓国人の高校生というモチーフをベースにした青春物が奇跡的に成功している。私の浪人・大学時代の友人で、むかし映画を撮っていたプラズマの研究者がいるが、彼ならこういう映画を撮るだろうなと思った。

あいにくの雨だったが、たいへん楽しいそして力づけられる経験だった。できれば来年はもう少し長時間参加したいと思う。


2000/10/17
few01