puzzle

恩田陸


私にとって『上と外』で少々はずした感のある恩田陸だったが、大はずれではなく、少なくとも巧い作家クラスであることは確実だとランキングされた。巧さでいうと、宮部みゆき高村薫クラスには到らないが、その下あたり。後は趣味性、というか扱われている内容が自分にとって魅力的に思えるか、ということになる。

そこで、さらにもう少し正体を見極めるべく読んでみたのが、これだ。長崎の軍艦島を彷佛とさせる廃炭坑島で、三人の死体が発見される。学校の餓死死体、アパートの屋上の墜落死体、それと映画館の中の感電死体。そこへ二人の検事がやってきて、事件について推理する。

全体はpiece, play, pictureという三部で構成されている。短い話(150ページ)で、字も行間も大きいのであっというまに読める。印象としては、テレビの二時間サスペンスドラマを見たような感じだ。

最初のpieceでは、脈略の無い引用記事が並べられている。さまよえるオランダ人にまつわる伝説、キューブリック2001年宇宙の旅を作り始めたという記事、「光文」という元号が制定されたという記事、など。

意表をついたこの書き出しにしろ、それに続くplay章での、ポール・オースターを思わせる不思議な雰囲気にしろ、やはり巧い。最後のpictureで描かれる「絵」を納得できるかどうかは人によって異なるだろう。私自身は、なるほどそういう解釈もあるな、と思った。

この作を読んで、不満だったのは、というか恩田氏に期待してはいけないのだろうな、というのは人物への踏み込みの甘さだ。少し踏み込むことはあるが、粘りがなく、二転三転する深さがない。ロジカルな構成の組み立て方、シーン描写の正確さ、イメージの豊かさ、アイデアの豊富さ、それと緊迫したストーリーテリング、どれも一流と思うだけに残念でもある。

たぶん恩田氏には粘りやしつこさが足りないのだろう。だから長篇にならない。短編は良くできているのに、うねりを作れないので、長くできないのだ。お友達にするには良い人だろう。

ただ本作で確認できたのは、恩田氏の扱いたいガジェット、部品は、自分の好みにあっている、ということだ。pieceいずれも、良い趣味だ。もう少しつきあってみよう。


2002/1/1
few01