ドリトル先生のイギリス

南條竹則・著


読む前は、ドリトル先生をなぞりながら英国案内する本かと思ってました。そうではなくて、南條氏によるけっこう本気のドリトル先生評でした。当時の英国の状況を参照しながらドリトル先生シリーズを読み解いて行く、正統派です。

そのため決して楽に読める本ではないですが、難しい事が書いてあるわけではないので、すこしづつ読み進めればいい本です。もう少し書き方を工夫すれば、読みやすくなると思います。

ドリトル先生シリーズは、子どもの頃からの愛読書なので、いろいろと興味深い所がありましたが、特に印象に残っているのは、「何故、秘密の湖はつまらないのか」というところです。

私は小学六年生の時に『ドリトル先生と秘密の湖』を読んで、相当に苦労したことを憶えています。そのため、南條氏の言っていること(ロフティングの限界)は、いちいち頷くのですが、実は苦労して読んだこともあってか、かならずしも駄作とは思っていません。なんというかロフティングの苦悩が作中ににじんでいるのが印象的で、心に残る作品なんですね、私にとっては。

私に限らず、そういう読者は多いと思いますが、上手なライターが見事に書き上げた物も面白いが、作者が自分と戦って苦労に苦労を重ねてできあがって作品に、すごく魅力を感じます。マンガの『風の谷のナウシカ』しかり、笠井潔の『哲学者の密室』しかり。もちろん子供心にそんな事をわかっていたわけではないですが、なんかゴリッとした感触、が記憶に刻み込まれています。でももう一度読みたいか、と言われると、ちょっと...、というのはありますが。


2002/5/9
few01