青い馬と天使〜いつもいっしょに いたいんだ〜

家族が図書館からウルフ・スタルクの本を数冊借りてきたので読みました。(子供会で取り上げるのかな?)


ウルフ・スタルクを初めて読んだのは
『おじいちゃんの口笛』
ウルフ・スタルク著、アンナ・ヘグルンド絵、菱木晃子訳
です。家族がお芝居を見にいって、なかなか良かったらしく、その原作を買ってきたものです。彼の作品の魅力が典型的に出ています。やんちゃでユーモアがあり、テンポが良くて、少ししんみりする。これも良くできてますね。もともとの文章が良いのか、訳が良いのか知りませんが、文章が読みやすく無駄がありません。どれも短い話だけれど相当に練りこんで作られているなと思います。


男の子二人組と、身寄りのないお年寄りの交流を描いた作品です。普通に書いてしまうと、しんみりした教科書的な話になりそうなのですが、ポップで楽しいお茶目な話になっています。アンナ・ヘグルンドの落ち着いた色合いの挿し絵も好きです。たばこ、ネクタイ、サクランボ、口笛など小道具の使い方が見事です。


『ちいさくなったパパ』
ウルフ・スタルク著、はたこうしろう絵、菱木晃子訳
ある朝、突然こどもに戻ってしまったパパがその息子と遊びまわる話です。大はしゃぎして騒ぐ子供になったパパと、落ち着いてたしなめる息子の対称がうまいです。いつものつもりで朝コーヒーを飲んだらあまりに苦くて吐き出しそうになったり、朝の一服を吸って死ぬ思いをしたり、といった小さなディティールが良く描けていてすーっと作品世界に入って行けます。テンポが良くあっさり書いてあるような感じなのに、実は相当にコーディネートが行き届いているのは、どの作品も共通で、これも例外ではありません。


『うそつきの天才』
ウルフ・スタルク著、はたこうしろう絵、菱木晃子訳
これは自伝的な二つの短編から構成された文章が中心の本です。少年を扱った見事な短編で、これほどできの良いのは久しぶりです。ウルフ氏の作品の原点が見える感じがします。ウルフ氏のスタンスは、いわゆる良い子でない、嘘もつく、思いつきで行動し、時に意固地になったりする、たくましく、しかし繊細な子供を主人公にしている点にあります。彼なりのリアルな少年像なのではないかと思います。作り物めいた所がないのは体験に裏付けされているからでしょうか。


児童文学作家には、夢想の世界を確かに作る能力と同時に、オリジナリティのある確固とした子供を描く能力が求められると思います。それは必ずしも現代に生きる本物の子供と齟齬が無いように描くこととは一致しません。例えば『路傍の石』などの古典が今読んでも何がしかを伝えるのは、そこに描かれている子供の心理がある確固とした物を伝えているからだと思います。


また多少極端ではありますが、長野まゆみの描く少年は現実の少年とはまったく無関係と言ってよいほどに夢想的ですが、そのオリジナリティは確かで少なくとも作者の世界では確固とした存在感を持っています。


ウルフ氏の作品に登場する子供にも、彼の作品ならではの存在感があります。


『青い馬と天使〜いつもいっしょに いたいんだ〜』
ウルフ・スタルク著、アンナ・ヘグルンド絵、菱木晃子訳
昨晩、娘が読めと言ったので読み聞かせしたのがこの本です。ちょっとセンチメンタルで優しいお兄さんという感じの天使と、ふっくらした幼稚園児のような幼い神さまが出てくる架空の世界の話です。構成の思い切りの見事なウルフにしては多少冗長な感じがしますが、丁寧に噛んで含めるように描いているのは架空の世界の話だからでしょうか。


天使と神さまは友達で、世界には二人しかいません。ある時、天使が夢で「青い馬」を見るところから話がはじまります。神さまは天使と遊びたいのですが、天使は青い馬のことが忘れられずに遊びに入れません。仕方がないので神さまはその青い馬を作ります。


神さまの子供っぽいボケが可愛いく、天使の好青年ぶりも気持ちの良いもので、読んでいて助かる感じがします。


ここまで褒めてきたのですが、いくつか読んで見て私にとってウルフ・スタルクは「どうしても読まなければいけない」と思うほどの作家ではないように思います。どれも見事で面白く誉めるのに躊躇はないのですが。エンターテインメントとしてもできが良く、構成や文章の練り具合やユーモアも見事で無理がない。


なにが不満なんだろう。私にとって小説は「そこにしかない宝石」のような物です。作者が後生大事に持っている宝石が垣間見えるのが重要です。たとえそれが玩具の指輪であっても。ウルフの作品は巧すぎて、それが見えにくくなっているような気がします。



2002/7/17
few01