ピンポン

曾利文彦・監督
http://pingpong.asmik-ace.co.jp/


明るく照らされた黄色い体育館の中、目の前に深い緑色の卓球台が広がっている。左手の小さく軽い球を台より少し上に構え、放り投げる。


サーブ
相手のバックに深く


すぐに強くドライブのかかったリターンが返ってくる
打つ、フォアへ浅く
回転の鋭くかかった球がネットの上でコースを変えながら自分のポケットに襲い掛かってくる
打ち返す
打つ
また打つ
打つ、打つ、打つ、打つ!
よっしゃぁ!


主人公のペコこと星野役にいま乗りに乗っている窪塚洋介、副主人公のスマイルこと月本役にレディキラーな美少年ARATAを配し、松本大洋の原作からそのまま出てきたようなひたすら濃いキャラクター達が打ちまくる映画だ。SUPERCARTakkyu Ishinoのテクノのリズムに乗って走る、走る、走り続ける。原作にはない幾らかベタな笑いを混ぜて取っ付きやすくしてあるが、基本は松本大洋の原作の忠実な映像化である。それもただマンガの絵を実写に移したのではなく、原作の持つ「唸り」や「リズム」までも忠実に表現しようとしている。映画を見たあと体の中でまだリズムがおさまらず、思わずヴィレッジヴァンガードで『ピンポン』全五巻を買い求めてしまった。

原作を読んでみて驚いた。五巻全部を映像化しているのだった。二年間かけて描かれた原作の部分部分のえらく荒っぽい表現と裏腹に、全体構成の隙の無さには松本大洋の才能に脱帽せざるをえない。あの映画のパワーの80%以上はこの原作の完成度に由来していると思う。映画はそれに日本映画独特の「間」の感覚を取り入れ、魅力的な役者達の艶を加えて、しかしあくまでも忠実に映像化することで魅力的な作品に仕上がっている。

まずピンポンを楽しんだ経験を持つ人には絶対のお勧めだ。つぎに窪塚洋介が気になる人(映画館の客のほとんどはそうだった)は当然ながら見なければいけないだろう。WIPEOUTにはまって飛ぶ感覚をしった人(そう、あなたです)も見た方が良い

試合の映像化にはCGが思いっきり多用されている。このCG技術なしでは映像化はできなかったろう。なぜなら役者がインターハイクラスの卓球をするのは不可能だからだ。一部気になった所はあったが、ほとんどは実に良く繋いであって違和感が無い。また映画としてわかりやすくするために球のスピードをわざと少し遅めにしてあると感じた。国際大会クラスの卓球の試合をテレビで見るとあまりの速さに面白みがかけるほどだが、そのあたりは良くコントロールしているな、とこれも感心した。

この映画について述べた多くの評が言っているように、どのキャラクターもいずれ劣らず魅力的でファンになってしまいそうだ。中でも静としてスマイル役のARATAと、おばば役の夏木マリ、動としてペコ役の窪塚、小泉先生役の竹中直人らがいい対象をなしていて映画に陰影を加えている。


2002/8/12
few01