子どもの王様
講談社ミステリーランドの一冊を読んだ。『美濃牛』などミステリー界で奇才と評判の高い殊能氏が書き下ろした『子どもの王様』だ。ミステリーランドというシリーズは最近のベストセラー作家に子どもも読める本を書いてもらうという企画である。執筆陣は我孫子武丸、小野不由美、島田荘司、法月綸太郎、綾辻行人、恩田陸、殊能将之、はやみねかおる、有栖川有栖、笠井潔、高田崇史、摩耶雄嵩、井上雅彦、菊地秀之、竹本健治、森博嗣、井上夢人、京極夏彦、田中芳樹、山口雅也、歌野晶午、倉知淳、二階堂黎人、太田忠司、篠田真由美、西澤保彦となっている。本屋でよく見る顔ぶれだから、誰でも一人ぐらいはお気に入りがいるかもしれない。
『子どもの王様』はジャンルから言うとミステリー系の児童文学というところだろう。最初に手に取ってわかるのは装丁がとにかく豪華だということだ。箱入り上製本というやつだ。書き下ろしにこの装丁は作家にプレッシャーと、責任感を感じさせるだろう。なかなか上手い企画だと思う。
ある団地での小学生たちの日常と、ある事件が描かれている。ほとんどのページは彼らの日常の細々としたことを描写するのに費やされていて、それを事件にからむ噂や不安感が背景からあぶっている。
「子どもの王様」というのは、主人公のショウタの友達で、学校を休みがちなトモヤが語る変な人物のことだ。髪は長い茶髪で、いつもよれよれのトレーナーとジーンズを着てる。頬がちょっとこけていて、やさしそうなたれ目で、口のまわりにぽつぽつとひげが生えている。
集団登校、給食、少年たちが夢中の特撮物「神聖騎士パルジファル」、俗悪番組「弾丸!コンデンスミルク」、自転車で坂を急降下する遊びなど、子どもたちの日常を事細かに描いてゆく、いささか程度を越えて描写する。ストーリー展開もいわゆる児童文学の枠は無視されている。読ませるね、確かに。特に最後の100ページほどは一瞬で読んだ。なかなかな秀作だと思う。さすがだな、という感じがした。
その上で、さて、これを子ども達はどう読むだろうか、と思った。おもしろがるだろうか。私なら怖いだろうな、と思った。怖がりだからな。でも怖いけれど妙に惹き付けられるものを感じるだろう。そういう話だ。
それから、私がこれまで書いたお話や、書くお話に子ども達の日常描写が似ていると感じた。多少ひねくれた、暗がりと明るい日だまりが交差する、少しつっけんどんな書き方が似ている。そう思いながら作者紹介を見たら同い年だった。
彼の描写は、私が書かなくても良いと思わせる筆力を持っている、夕暮れの高架線路、立ち並ぶ団地、子どもたちの夢想と現実が入り交じる世界の描き方にしっくりくるものがある。ただ、もっと楽しい事もいっぱいあった。わくわくすることも。それに単に子どもだからテレビの特撮物に憧れて信じていた、では澄まされない、今に通じる伸び上がる真っすぐな思いもあった。この『子どもの王様』の世界は狭いと思う。魚眼レンズに押し込められたような世界だ。それはこの本の欠点ではないが、大人の視点のように思う。
なかなかいいね。このシリーズの残りの刊行されている本を読んでみよう。期待できる。
2003/11/22
few01