スクランブル・マインド―時空の扉 マインド・スパイラル

キャロル マタス & ペリー ノーデルマン
スクランブル・マインド―時空の扉 (マインド・スパイラル)



ハリーの第一巻以外で始めて読んだネオファンタジーということになりますね。あっさり読めて、面白かったです。

ファンタジーでは、どういう不思議を持ち込むか、その持ち込み方をどうするか、が一つのポイントになる。不思議とは時間や空間の超越や、物理法則を無視できる能力などである。

これに関して従来は、『ほんものの魔法使い』(P. ギャリコ)などのように、一般に控えめに、だが効果的に持ち込むことが多く、かつ推奨された。ところが、ハリー・ポッターや、このマインド・スパイラルなどのネオファンタジーでは、魔法が潤沢にあっさり登場する。

主人公のレノーラ姫には、究極の能力とも言える、想像した通りに現実を変える事ができるという、すさまじい力が与えられており、さらには、彼女の住む国の住人は皆その能力を持つ。すでに、かなり掟破りな世界である。

またもう一人のコリン王子の方は、他人の心の中が見え、聴こえ、心の中に入れるという、能力を持っており、こちらも彼の国では住人がみなその能力を持っている。レノーラの国ほどではないが、こちらも十分に凄まじい。

こんなことをしたら、ファンタジーとして成立しないんではないかと、私は心配してしまったのだが、いやぁ、見事だ。ちゃんとルールを踏まえて世界を構築できている。多少強引な印象はあるが、終盤の攻防はなかなか「あっ」と言わせるものだ。なるほどねぇ、そうきたか、という。

それからハリーと共通する特徴として、登場人物が現代的だ。レノーラ姫は、自己主張が激しい現代的な普通の女の子で、口調も乱暴で、テンションの上がり下がりが激しく行動的。コリン王子は、弱気な内省型でそばかすの細身、冒険よりはぼんやりしたり、のんびり散歩をしたりする方が好きな赤毛の男の子だ。欧米ならば、彼女と彼に、自分自身を投影する子供達が大勢いる事だろう。日本の子供達にもかなり身近な存在として映るだろう。

彼らの悩む事、喜ぶことは、異世界を舞台にしており、派手な魔法に彩られてはいるが、日常的に現代の子供達が感じているのと大差ない。テレビスターに憧れ、幻滅を感じ、身近な存在が急に気になったり、自分自身の言動に戸惑う。

これは一巻目で既に四巻まで出ている。とりあえず二巻目を読んでみようと思う。全体的な評価は、もう少し先延ばししたい。