バッテリー2

バッテリー (角川文庫)
バッテリー (2) (角川文庫)
あさの あつこ


妻が持っていた文庫2冊を読んだ。うまいねぇ。良くできた漫画を読んでいる時のように、すーっと物語に入って夢中にさせる。そしてあっという間に読み終わってしまった。6巻で完結するらしい。たしかに傑作だ。残りを読むのが楽しみ。

とくに印象に残るのが、主人公の巧(たくみ)少年の、人当たりの悪さ、不器用な生き方だ。その内面がくどくなく添えてあって、読んでいる方に彼の立場と考えが敏感に伝わってくる。また相棒の豪の、すぐれた人間観察力や調整力の描写もうまい。 いま一番夢中になっていることに、「いま」を費やしていいのかという不安、自分の才能への不安、仲間の才能への信頼と不安などがごちゃごちゃになる中で、判断をしてゆく。

ステロタイプを避けるよう努力したと作者が書いていた。少年達の生をまっすぐに見つめて真摯に描いたと。しかし私は、登場人物たちの型は全体にステロタイプだと思う。天才肌で自信過剰のピッチャー、女房役の人当たりの良いキャッチャー、かつて高校野球の有名な監督だった祖父、体が弱く鋭い感覚を持つ小さな弟など、どこかで見たようなキャラクター群だ。しかしそれでいて、どれも二番煎じでなくなっている。それぞれが、それしかないキャラクターになっている。これは登場人物達の声に、真剣に耳を傾けることのできる作家にしてはじめてできることだと思う。

そして、妻も言っていたが、体の動きや、その受け取る感覚の表現がうまい。ただボールを投げて受けるだけのことなのに、一回一回がまるで違うその瞬間として表現されている。風呂に薪をくべる作業、手を掴むときの暖かさ、冷たさ、そういった小さな動作のそれぞれが無駄でなく、意味を持っている。