ローマ人の物語 17,18,19,20 悪名高き皇帝たち (1,2, 3, 4)

塩野七生
ローマ人の物語 (17) 悪名高き皇帝たち(1) (新潮文庫) ローマ人の物語 (18) 悪名高き皇帝たち(2) (新潮文庫) ローマ人の物語 (19) 悪名高き皇帝たち(3) (新潮文庫) ローマ人の物語 (20) 悪名高き皇帝たち(4) (新潮文庫)


カエサルアウグストゥスの後の四人の第一人者(皇帝)の時代が描かれている。
並べると、

の四人となる。

ティベリウスの巻の冒頭は、ナポリ湾にある小さな島の話ではじまる。現代だと船で三十分ほどでナポリから着ける。ローマ時代には、3時間ほどかかった。

風光明媚なその島の高台に、ティベリウスが作らせた別邸がある。当時は船着き場から350メートルほど登る必要があったらしい。現在の島の様子と重ねながら語られるので、私は島に行って、塩野氏とともに、実際に登って遺跡を見ているような感じがした。

この別邸は何かというと、保養所ではなく、老ティベリウスが一人こもってローマ皇帝を勤め、ローマを動かしていた場所なのだという。ローマ皇帝が、ローマではなくて、島にこもってローマを動かしていた?何者だ、ティベリウスという男は。私の心はすでに、紀元14年のローマに飛んでいた。

以前『時代小説の愉しみ』という本の紹介
http://homepage.mac.com/few01/AirshipNews2001/zidaiSyousetu.html
の中で、『半七捕物帳』が二段ロケット構成になっているという話を紹介した。半七捕物帳は、半七じいさんが昔の話を語る、という構成になっている。私たちは一旦、半七じいさんと会って、そのじいさんの昔話を聞くという道を通って(1段ロケット)、時代小説の世界に入って行く(2段ロケット)。

ハイファンタジー以外のファンタジー小説は、二段ロケットである。この二段ロケットという形式は、人間を異世界、時代小説であれば江戸時代、歴史読物であれば古代に、連れて行くための最良のフレームワークの一つなのだと思う。

この『悪名高き皇帝たち』の冒頭は、その見事な一例だ。私は一旦、イメージの中で、地中海の深い青を見下ろす、切り立った崖のある緑多いカプリ島に飛び、海岸沿いの緩やかな上り道を登って行き、ティベリウスの遺跡に立って、巨大なローマ帝国と、小さな存在であるティベリウスの孤独に心が重なった瞬間に、古代ローマに飛び立っていた。

四人の第一人者たちは、カエサルアウグストゥスに比べると、色々な意味で足りない所のある人たちだ。決定的にダメなカリグラから、すっぱりと一面だけ足りないティベリウスまで、その幅はいろいろだが。いずれにしろ塩野氏のうまいのは描かれる人間が良く見えるという点にある。どういう男だったのかが、くっきりと浮かび上がってくる。

私はカリグラや、ネロがどういう人物だったのか、実はまったく知らなかったのだと良くわかった。奇人変人もしくは狂人の類ぐらいに思っていた。全然違うじゃないか。

さて次の『危機と克服』に入って行こう。次は何が待っているのだろう楽しみだ。