はじめからの数学 (5) 数学と自然法則 ~科学言語の開発

J・タバク (著)、松浦 俊輔 (翻訳)
はじめからの数学 (1) 幾何学 ~空間と形の言語 はじめからの数学 (2) 代数学 ~集合、記号、思考の言語 はじめからの数学 (3) 数 ~コンピュータ、哲学者、意味の探求 はじめからの数学 (4) 確率と統計~不確実性の科学 はじめからの数学 (5) 数学と自然法則 ~科学言語の開発


学校で習う数学は、エレガントに整理された形で教わる。もちろんそれで良いのだけれど、最初からそんなに整理されていたわけではないんだな。当たり前だけれど。

これらの本を読むとそれが良くわかる。数学の世界での偉人たちが、ぞろぞろ出てくるが、彼らも歴史や当時の常識から無縁ではなく、必ずしも自由に発想できなかった、という事例がたびたび出て来て、少しほっとする。

例えば微積分は、ライプニッツニュートンがほぼ同時に使い始めているのだが、微積分の記号はライプニッツが考案したもので、ニュートンは、それまでの記述方法に縛られており、ライプニッツのような便利な記号は結局生み出せていない。

さらに、そのせいで、イギリスの数学者は、ニュートンびいきのため、ライプニッツ(ドイツ)の作った記号を使うのを拒み続け、イギリスの数学は何十年も大陸から遅れてしまった。

また、毎日お世話になっている、デカルト座標系、xyが直交した普通の座標だが、これはデカルトが使い始めた偉大な発明だけれど、デカルト本人は、あまり便利には使っておらず、古くからの斜交座標系を多用していた。

数学の歴史を扱う本の場合、数学者の人となりにページを割くあまり、肝心の数学の内容がほとんど紹介されないということがあるが、この本はその案配が上手いと思う。

ちょっとだけ、簡潔に人となりの紹介が混じる。ガロアの導入部とかうまい。ただ基本は、数学がどのように変化してきたかを述べる本で、短いページの中に、わかりやすく、それぞれの変遷の意義を伝えることに腐心してある。

かなり理論が重くなって来たかな、というあたりで絶妙に数学者の横顔が紹介されている。デカルトの末路など。

中学生でも読めるようなことが、訳者あとがきに書かれていたが、よほど数学が好きでなくては、中学生には眠たい本だろうと思う。でも、もし興味があるなら読めるとも思う。これを中学生時代に読み通したら、その後の人生が変わるかもしれない。

私が、本書を読んでいて、説明が上手いな、と思った例の一つが、

体積が二倍の立方体を、定規とコンパスでは作れない

という証明だ。私は群や体について、大学で勉強したことがないので素人なのだが、その私でも、あ、なるほど、と思えた。

逆に自分が馴染みの所、線形代数や数理論理学などの章を見ると、嘘が書かれていなくて、上手に解説されているのがわかる。見事だ。


なお初版だからか、誤植がいくつかあった。単位行列の1と0がひっくり返っていたりする。惜しい。ぜひ版を重ねてもらいたい良書だ。