あたらしい教科書「コンピュータ」

編集 山形浩生
音楽 (あたらしい教科書 8)コンピュータ (あたらしい教科書 (9))


両方とも食い足りない感じがした。どっちも面白かったけどね。特にコンピュータは、食い足りない。プロジェクト杉田玄白山形浩生だから、もっと面白いかと期待したが、まぁ教科書だものね。サウンドエシックス小沼純一は、なかなか良い仕事をしている。タラフ・ドゥ・ハイドゥークスといい、この人は要チェックだな。

「音楽」は人物をキーにしていて、「コンピュータ」は物やサービスをキーにしている点が違うが、どちらも構成は良く似ている。おおよそ見開き2Pで一つの項目の解説がなされている。基本をしっかり押さえた内容、かつ、解説者の独自の視点(声)も書き込まれている。項目の選択が、普通の教科書とはまるで違って、偏りと広がりを持っている点も共通だ。ちょっとラジカル、でもまじめ、てな感じかな。

たぶん、どちらも読み通すのには努力が必要だろう。つまみ読みの方が向いている。そして理想的には、実物のコンピュータや、実際の音楽を前に、体験しながらだと、ただ読むよりずっと多くの得るものがあるだろう。

「音楽」の方で、クラシックやジャズはおいといて、何人か面白い人が取り上げられていた。例えば、スコット・ジョプリンエンリコ・カルーソー、ウンム・クルスーム、ボブ・マーリィブライアン・イーノテレサ・テン、サムルノリ、ビョークなど、普通、音楽の教科書には出てこないだろうなぁ。でも、たしかに音楽の高みと広がりをこの小さな冊子で感じるには、なかなか良いセレクションだ。

自分がなじみの無いジャンルの音楽について書かれた文章を読むのは、多少苦労した。ただ、自分の音楽に関する知識の隙間を埋めてくれた、という意味で読後すっきりした。

「コンピュータ」の方は、ほとんど私にとっては常識的な内容で、それをライターたちがどう料理するかを楽しみに読んだ。その線でいくと、第4章インターネット、第5章ITで変わるくらしと社会、は面白かった。出会い系サイト、ウェブ2.02ちゃんねる、オフ会、リモートオフィス、ライフログなど、うまく今のコンピュータの広がりをつかんでいる、と思う。ただ、実際のところは、こういう目覚ましい分野ではなく、私たちの社会や生活のありとあらゆる所に入り込んでいるという事実が、影響として、また進展としては最も注目すべきだとは思うのだが、それは話としてつまらなくなるので、書かれていないのだろう。

以上、このシリーズの中では、この2冊とも従来の教科書に近いテーマを扱っているのが難しいところだろう。次は、「外食」とか「定番」とか。どうやっても教科書になりそうにないテーマを選んでみよう。