犬婿入り

多和田葉子


「ペルソナ」と表題作が入っています。「ペルソナ」はドイツに留学した姉弟の、姉が主人公の現代小説です。句点のやたらに少ない、みっしりとした文体で、人種や文化的差異にまつわるできごとに遭遇する彼女の生活が描かれています。文章に味があって、見事です。文章に関しては読んでいて、とても気持ち良い。才能ですかね。内容はけっこう辛辣というか辛い話題をあつかっていて読むのが苦しい。でも考えさせられる話で、読んで良かったと思いました。

犬婿入り」は「ペルソナ」と違い、寓話的な変なお話です。一種の不条理小説、筒井康隆安部公房の系列、と言って良いのでしょうか。それにしては文体がえらくユニークで魅力的です。多摩川付近の団地で個人塾をやっている女性と、そこに転がり込んできた男の話です。表題の「犬婿入り」というのはその女性が生徒達に教えた、どこかの昔話で、お姫さまの下のお世話をするのが面倒なので、召し使いが犬に尻をなめさせて始末していたというようなことから始まるヨタ話です。面白かったけれど、好きか、と言われると、嫌いな部類でしょうか。個人的に、できすぎな感じがしました。笑えない。


2003/3/17
few01