ぼくと未来屋の夏

はやみねかおる
ぼくと未来屋の夏


講談社ミステリーランドの一冊で、私にとって『子どもの王様』から読み始めて四冊目になる。このシリーズに入る時は、だいぶ恐る恐るだったが、四冊目となり大分なれて来た。恐る恐るというのは、ひどくつまらない可能性や、逆にびっくりするような内容かもしれない、という不安からだ。今まで読んだものはどれも水準を満たしており、面白い。なにより手抜きがないのが良い。子供向けだからといって、子供に媚びるような書き方がされた本が少なからずある児童書の中にあって、良いシリーズだと思う。

さて『ぼくと未来屋の夏』はどうだったか。個人的には、このシリーズに一番期待していたのはこういう本だったかもしれない、という感想だ。

「未来屋」が仕事という怪しい若者がふらりと街にやってくる。雰囲気は佐野史郎、口八丁でいい加減な感じだが、憎めない上に時々ぐさりと来ることを言う。主人公の小学6年生の風太との掛け合いが良い。

風太は作家志望で、少年探偵WHOを主人公にした話を書いており、そこでの謎解きと、現実の謎解きの二重写しになっている。要するに未来屋こと猫柳がホームズで、風太がワトソンの役回りだ。ただ猫柳が子供達をばかにしておらず、風太相手にちゃんと向き合っているのが、読んでいて気持ちがよい。

テンポの良さ、会話運びの軽快さを重視しているため、どうしても描写はあっさり目で、ストーリー展開もパラパラ漫画のような急ぎ足なのが、私には物足りなかった。ただ、それはどちらを取るかというバランスの問題のように思う。これはこれで良いバランスだ。

全体として眺めると、小学6年生の夏休みのエッセンスを綺麗に閉じ込めて、うまく短い話に仕上げてある。良作だろう。