イノセンス

押井守
イノセンス スタンダード版 [DVD]


映画の『攻殻機動隊』の続きという設定になっています。前作を見ていなくても話はわかりますが、細かな設定やキャラクターの役割をまったく知らずに見ると、わけがわからないかもしれません。ご存知ない方に少し説明します。

未来の話です。たぶん日本、もしかすると上海あたりが舞台です。警察の公安9課というグループの話です。どういう未来になっているか、というと多くの人間がサイボーグになっている未来です。腕や目だけ、という人も少しはいますが、多くは脳の一部が、もしくは全部が人工臓器になっています。この映画以外での攻殻機動隊の主人公である、少佐こと、草薙素子は全身がサイボーグ(この映画では義体と呼ばれる)でした。

当然ながらロボットも多数実用化されています。見た目には大変人間と良く似ており、また人間が義体化しているので、その境は曖昧になっています。ですので、ディック的な話、人間が人間であるとは何か、が背景のテーマとして流れています。

この映画では、愛玩用のロボットが主人を殺害し、かつ自害するという事件が頻発するところから始まります。その原因を調べるために、草薙のもと相棒であるバトーが調査をします。今回の主人公はバトーです。見た目はカリフォルニアの州知事に良く似たバトーが、ターミネーターばりの活躍をします。

ミステリー仕立てなので、謎ときについて語るのはやめます。ただし実は、筋はそれほど大したものではありません。SFでは良くある話です。見終わって「やられた」とか「なるほど」と合点するようなものではありません。

それよりは設定、それと哲学的な蘊蓄、印象的な音楽が散りばめられた映像がこの映画の見物です。逆に筋などはどうでも良い、と押井監督は思っているのではないかと思わせます。

重要なモチーフは二つあります。一つは犬で、もう一つは人形です。この二つのモチーフが繰り返し変奏されて現れます。いずれも人が愛玩する代表的なものです。バトーは犬を飼っていて、その犬のために時間を費やすことで、人間性を保っているような所があります。また、たびたび登場する球体間接人形、もしくは人形型のロボットは不気味です。不気味な魅力があります。

美術や、建築物、小道具など、偏執狂的に細かな所が描かれています。それでいて、ちっとも解放感や、世界に繋がる感じがない。ただ無意味にマニアックな印象を残します。単なる蒐集、コレクターをイメージさせます。シーン展開も低温のぼそぼそとした進行で、繰り返しや変奏が多く、ぐるぐると醒めない夢を見ているようです。

面白かったか、と言われると、言葉につまります。好きな映画ではありますし、印象的でした。ただこの映画を勧められる友人は多くないな、と思います。