花とアリス

岩井俊二
http://hana-alice.com/
花とアリス 特別版 [DVD]


人間ドックがすんであいた午後、新宿まで歩き、50人ほどの小さなシアターで映画を見ました。

映画が終わりエンドロールが始まった時に私は、あ、そうか映画を見ていたんだった、と思いました。そうだ、これは映画だったんだ。

二人の中三の女の子が、高校に入るあたりからの一年を描いた映画で、恋と友情の話です。ハナ役が鈴木杏、アリス役が蒼井優(10代目三井リハウスガール)、そのほか端役にテレビでよく見る豪華なキャストが配されています。

岩井氏らしい独特の映像で、台詞らしくない台詞や、演技らしくない演技、演出風でない演出で、いつの間にか映画の世界に巻き込まれてしまっていました。ハナやアリスの小さな動きや台詞から目が離せなくなっていました。

けっこう笑えます。見ていて気分が楽になります。

たくさんの嘘が出てきます。でも、みな嘘にとても寛容です。現代社会では嘘は罪悪ですし、私もその文化の中にいるのですが、本来嘘は、それほど罪悪なのでしょうか。後ろめたく思う気持ちは大事だと思うけれど、もっと嘘に寛容な社会であっても良いような気がしました。

構図が見事ですね。花にかこまれたハナの家、あたたかな窓からの明りが差し込むバレエの練習場など、どのシーンも繋ぎでなく、大事に構成されていて、監督が映画好きであることが良くわかります。これまでは動と静でいうと、静に印象的なシーンが多い監督でしたが、今回は「動き」のシーンが多く、例えば海辺のシーンや、バレエのシーンなど、またいずれも良かった。成功していると思います。特に主人公たちがバレエを習っているという設定で、その動きが映画の中に活かされています。落ち着いたカメラで動きを撮っているのでなく、カメラそのものも踊っているかのようで、それでいて見辛くない。不思議な映像だと思いました。

またバイオリンが主旋律を奏でるテーマ曲がいいですね。音楽がとても効果的に使われていると思います。

ところで女子高校生の生活が描かれている、この映画は、男性の監督が作っているわけですが、彼女ら二人を女性はどう見るのでしょうか。本物らしいと思うのか、芝居っぽいと思うのか。それは少し気になりました。

今まで岩井氏の映画を何本か見てきまして、でも映画館で見たのは始めてです。だから公平な判断はできないのですが、これまでは趣味性の強い、詩的な映像を撮る監督だなぁ、ぐらいにしか思っていなかった所があります。おもしろいけど、それほどかな、という。でも、この映画はかなり手放しに賞賛したいと思いました。いい時間を過ごさせてもらいました。