家守綺譚

梨木香歩
家守綺譚


死んでしまった友人が住んでいた古い家に、一人で居候(家守)をすることになった若い小説家の話だ。友人が幽霊になって時々現れる。植物の名前をタイトルにした掌編が多数集まって、連作になっている。

池澤夏樹毎日新聞の書評で上手に誉めていて、他の人の感想もいずれも好評価だったので、多少期待しながら読んだ。たしかに悪くない。

しかし何故だろう。世界に入れない。読む側の状態を選ぶのかもしれない。長編でなく連作掌編だからかもしれない。どうも作り物めいた感じがする。これは『丹生都比売』を読んだ時にも感じた。この作り物っぽさは、『裏庭』にも多少あるが、『からくりからくさ』や『西の魔女が死んだ』ではあまり強くないように私には感じられる。

雰囲気が『蟲師』や『百物語』(杉浦日向子)に似ているが、『蟲師』のマンガらしいダイナミズムや、『百物語』の、ぞくっ、とする感じはない。違う味わいだ。小説やマンガ、特に日本のには、それぞれ独特の味わいがある。翻訳小説ではあまり味わえない。その味わいが日本の小説を読む楽しみの大きな一つだ。内田百間にも、宮沢賢治にも、みな独特の味わいがある。ただその味がわかるばかりに、好き嫌いが出てくる。

この味を言葉で表現するのはとても難しい。あえて言うと『家守綺譚』は、思い出したくない過去の思い出が、自分の中で脚色されてしまったような、そんな苦い味わいだ。

文章の質は高い。色々な花や植物が出てくる濃密ながらさわやかな描写が、作品全体を静かに折り目正しく編み込んでいる。また登場する人物やキャラクターたちがとぼけたユーモアを醸し出しており、しかつめらしい感じがないのも楽しい。とぼけた味わいがする人物、植物、もののけ達だ。

だから、この味わいが肌に合う人にとっては、この本は手元においておいて何度も味わいたい良いものだろう。いつか私もこの味がわかるようになるかもしれない。