サイン

M.ナイト・シャマラン
サイン [DVD]


シックスセンス』のナイト・シャマラン監督の映画で、主役はメル・ギブソン、しょぼくれた親父役だ。

彼は、幼い息子、娘と、自分の弟と一緒に田舎の一軒家にくらしている。その家の隣の、トウモロコシ畑が踏み倒されて、ミステリーサークルができる所から映画は始まる。この家族が何やら訳ありで、ただ何とも言えずいい人たちである。主人公は、どうももと牧師だったらしいことが示唆される朴訥で生真面目な男だ。息子は呼吸器系の発作があり神経過敏だけれど、小さな妹を思う気持ちの強い素直な子だ。妹はまだ3〜4歳ぐらいで、大きな目をまっすぐに相手に向ける少し神秘的な女の子。主人公の弟は、もと野球選手の良い体格をした、これまた真面目な男だ。

話はこの4人を追いかけて進む。この4人が、ある奇天烈な事態に遭遇しサバイブする話である。種明かしはしてはいけないだろう。ただ、その種自体は、それほど大した物ではない。ありふれたストーリーだ。『シックスセンス』のような驚きはない。

しかし、この良さはなんだ。まず4人の味わいがいい。人間関係を焦らず大事に紡いで行こうとする彼らの態度がいい。普通ならパニックものになりそうなストーリーなのに、登場人物たちがみなゆっくり話す。ゆっくり動く。その中にクスッと笑わせる暖かみのあるユーモア、あっと小さく息をのむたくさんの瞬間が織り込まれている。

映画にも文体というのがあるかもしれない。シャマランの文体は確かに他の誰とも違い、そして実に得難い魅力的な文体だ。これまでこの映画を見なかった理由の一つは、ずいぶんセンセーショナルな広告がなされていたためだが、見てみるとシャマランの見事な文体に貫かれた、暖かいユーモアにあふれた映画だった。あの広告は、きっと損している。