アメリ

アメリ [DVD]
ジャン=ピエール・ジュネ


ロングランをやっていたので何度か映画館に足を運ぼうと思ったが、結局見ずに今まで来ていた。

ハートフルな内容らしい、というのと、『デリカテッセン』という奇天烈な映画の監督であるジュネのイメージが合わずに、先延ばししていた映画だ。見終わって確かにハートフル、しかしまた確かに奇天烈な映画だった。どっちも正しい。かなり捻くれたハートフルものである。

目のくりくりした一目見て印象に残るアメリという若い女性が主人公の映画である。彼女はカフェで働いていて、アパルトマンに一人暮らししている。いつもきょとんとした顔をしていて、あけすけに口を開けて笑ったり、泣きわめいたりしない。不思議なことを考えるのが大好きで、その自分のイメージの世界で生きている。その彼女のまわりに住む老人、八百屋、カフェの店主、店員、また彼女の父、友人などとの、いろいろな小さなエピソードが描かれている。彼女は決して消極的とか内気とかいうのではなく、物語を引っ張るのも留めるのもいつもアメリ自身が中心になっている。しかしまっすぐに相手に向かい合うといった、『サイン』に出てくる登場人物たちのような人間関係がとにかく苦手である。

まず映像がじつに魅力的で、小粋でセンスにあふれ、おしゃれであり、こういうのが好きな女性にはたまらないだろうな、と思う。出てくる小道具や街の風景など、どこをとってもそのまま、お洒落なムック本に掲載されそうな感じだ。これを見ていると私はフランスに行った事がないのだけれど、フランス人ってのは、こういう洒落たものが当たり前にある社会に生きているのだろうか、なんてまぁ奇妙な、と思う。もしそういう人が日本に来たら、あまりの猥雑さに頭が変になってしまうかも。

それからエピソード一つ一つが、どれも洒落ている。私は父に海外旅行をすすめるためにアメリがやったいたずらが一番印象的だった。まいったね、あれには。中にはかなり度の過ぎたいたずらも多い。が、あえてそういう毒も普通に入っているあたりも魅力の一つだろう。

ただ私にはかなり忙しない映画だったな、という印象があって、それは、アメリという魅力的な女の子の印象と正確に重なっている。頭のくるくるまわる若い不思議な女の子ともし付き合ったら、こういう感じがするだろうと思う。楽しく、元気が出るかもしれないが、ちょっと休もうよっていう感じだろうか。