グッバイ・レーニン

グッバイ、レーニン! [DVD]
ヴォルフガング・ベッカー


暮しの手帖にレビューが載っていて、見てみたいと思っていた映画です。おもしろい、良い映画でした。沢木耕太郎が見事なレビューを書いていて、あれを読んだ人にはもう何もいうことがないです。ご存じない方を想定して多少導入を書いてみます。

現代の東ドイツを舞台にした、コメディの少し混じったハートフルムービーです。お父さんが西へ亡命してしまった、ある母子家庭のお母さんと息子が主人公です。

母は教師で、社会主義教育に大変熱心な理想家として描かれています。その母が、ショックによる心筋梗塞で倒れてしまい、意識不明になり、なんとか8ヶ月後に意識が戻ります。ところがその8ヶ月の間に壁は崩壊してしまいました。

医師から、ショックを与えないようにと釘をさされた長男は、理想家の母に、この8ヶ月間の激変を隠すことにします。部屋を模様替えし、食べ物のパッケージを古いものに詰め替えて、ラジオを壊して、涙ぐましい努力をして隠します。

そのお母さんが「テレビがみたい」といいます。それにこたえるために、昔のビデオテープを友人に編集してもらい、ニュース映像をでっちあげてビデオを用意し、架空の映像を流してごまかします。

そうやって嘘をつき続ける間にも、世の中はものすごい勢いで変わって行きます。


いろいろ好きなシーンがあります。

圧巻は、グッバイ・レーニンという表題の意味がわかるシーンです。映像としても見事で、かつ映画の深みがすーっと深まるという、実に映画的な名シーンといって良いと思います。

母役のカトリーン・ザースの、まっすぐに人を見つめる背筋の伸びた役がいいですね。私の実の母に雰囲気が似ていて、自分を主人公に重ねて考えました。

また主人公の彼女役のチュルパン・ハマートバが、大変キュートで、映画に華をそえています。役柄としては少し中途半端でしたが、途中から最後にかけて大変重要な役回りを果たします。

また、でっちあげのニュース映像を、友人と作って行く過程が楽しいですね。自主制作映画のノリですが、騙さなければいけないので、製作の意味が違っているのですが、映像制作そのものはやはり楽しい、という。

色々な意味で、フィクションが入れ子構造になっていてそれでも伝わる物はあるのだという、映画はそもそもフィクションなのだけれど、それでも人間にとって大事な何かを伝えることができるのだというのが、しっとりと伝わってくる映画でした。監督は映画が、とにかく大好きなのでしょう。