グールド 孤独のアリア
カナダのピアニスト、グレン・グールドについて書かれた本だ。評伝ではなく、作品批評でももちろんなく、不思議な位置づけにある。シュネデール自身はグールドの知り合いでも、一緒に演奏したわけでもない。彼がこの本を書くために使っている資料はどれも二次資料ばかりだ。だけれども、今までグールドに書かれた本をいくつか読んだ中で、何か一番グールドに近いところを掴んでいるように感じた。
グールドの代表作の一つである、ゴールドベルク変奏曲(バッハ)と同じ数の章立てになっていて、いろいろな側面からグールドの人と音楽を掘り下げている。
私はこれを読んでいると、暗くなる。何故だろう。グールドはある種の天才だと私は思うが、その天から授かった才能のために、普通の我々が感じるような楽しみからは阻害されている。しかし彼にとっては、自分に与えられた能力で触れる事のできる世界が何にも増して魅力的なため、不幸ではない。
わたしは大学時代にグールドを知って聞きあさった。多くの人が同じような体験をしたろうと思う。まったく破滅的にセンセーショナルだった。クラシック音楽に対するイメージがまるで変わる体験だった。というかグールドという音楽に出会った、とすら言えるかもしれない。それは私が知っていたホロビッツやリヒテルやブレンデルやアシュケナージやその他の多数のビルトゥオーゾたちの作り上げていたクラシック音楽とは違う世界だった。
グールドのやっている事や、言う事は普通の人にはわからない。が、彼の音楽は我々に届く。確実に彼岸の美の片鱗を伝えてくる。その矛盾というか、伝わり方の違いは見事なほどだ。
本を読んで、再度二つのゴールドベルクを聞き直した。