魔女

『魔女』第1, 2集 
五十嵐大介
魔女 第1集 (IKKI COMICS) 魔女 2 (2) (IKKI COMICS)


飛行船通信で教えてもらった漫画家の一人、五十嵐大介の『魔女』を読んだ。魔女に関する短編集だ。魔女とは、この世と、その外の世界の狭間にいる者とされている。フードをかぶっていたり、動物の頭を好んだりといった、昔ながらの魔女像を踏襲している部分と、スキーでモーグルもどきの滑降をしたり、ばっちりモダンなファッションを身にまとったり、ジーパンにTシャツだったり、ぼくとつな田舎娘だったり、と意外なとりあわせがされている。そして、これが、けっこう良い味わいになっていて、本当に映像的な漫画家だと思う。

読む、というよりは、鑑賞、もしくは体験してみて、という表現が似合う漫画だ。絵が圧倒的にうまくて、細いペンで細密に流れるように描かれている。あっというまに、話の中に引きずり込まれる。ストーリーは絵のすごさに比べると弱いが、絵の力で十分補っている。ストーリーのいくつかは、説明が不十分で想像で補うように作られている。高踏的と言ってもいいくらいで、絵のうまい漫画家にはありがちなことでもある。

第1集には、「SPINDLE」「KUARUPU」と掌編の「騎鳥魔女」の三編が収録されている。SPINDLEはコンスタンチノープルを舞台とした話で、ねたみから強い魔女になった女(この設定が今ひとつリアリティがない)と、お告げを得た遊牧民の少女が出てきて対決する(毛織物にお告げが宿るという設定は見事)。体がバラバラになったり、多少グロテスクなところもある。街や村の絵、樹木や水、虫、鳥など緻密に描かれている。

第2集には、「PETRA GENITALIX」「うたぬすびと」と掌編の「ビーチ」が入っている。アニメとかにしたら面白かろうな。MEMORIESの「彼女の想いで」を思い出した。PETRA GENITALIXは、EUスペースシャトルで、宇宙遊泳中に宇宙飛行士に飛来した石が直撃し、頭部にめりこんでしまうという事故から始まる。その頃、一人の牧師が吹雪の中、ある村を訪ねる。一人の女に会いに。その女は女の子と二人暮らしで、村から外れたところに住んでいる。当然、この女が魔女である。やがて二つの話が一つになって行き、魔女が役割を果たし、女の子と交替をするまでの話だ。

私は「PETRA GENITALIX」と「SPINDLE」が好きで、「KUARUPU」と「うたぬすびと」は何やら頭でっかちで好きでない。このあたりは、好みが分かれるところかもしれない。五十嵐大介は、この『魔女』以外にも『はなしっぱなし』や『そらとびタマシイ』など、多数の良い短編を描いているが、長編がない。もし可能なら内田善美の『星の時計のLiddell』なみの長編を描いてくれないか、などとあらぬ期待をしてしまうのだが。