ソラリス

レム
ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)


最近、ソダーバーグによって再映画化されたSFの古典だ。タルコフスキーのおそろしく眠たい映画としてご存知の方も多いだろう(ノーカットで見ると165 分)。私はけっこう好きだが。

ところで『ソラリスの陽のもとに』というタイトルの早川SF版を読んだ人も多いだろう。私が今回読んだ『ソラリス』は新訳だ。

どこが違うか、というと、『ソラリスの陽のもとに』は、ロシア語訳をもとにした日本語訳で、ソ連時代の検閲により、多数の削除部分がある。今回の『ソラリス』はポーランド語の原書から訳されている。そのため、ストーリー自体は変わっていないが、途中のソラリスの海の描写や、ソラリス学の系譜に関する部分が大幅に追加されている。

いずれもご存知ない方のために、話の簡単な導入をしよう。

ゼリー状の海を持つ、ソラリスという名前のついた惑星がある。その海が、生き物のように、いろいろ形を変えたりする。そのソラリスの海を研究するために、たくさんの人が調査、探検、実験をしてきた。しかし未だに正体が良くわからない。もうさんざん研究をしてきて、ソラリス学という分野ができて、その調査研究も、ちっとも成果がないので末期になったころの話だ。

ソラリスの海には観測用のステーションがあり、そこにクリスという心理学者が到着するところから話が始まる。彼の専門はソラリスの海に関連する心理学だ。行ってみるとステーションは、打ち捨てられたようになっていて、出迎えた科学者も幽霊のように自暴自棄な状態だ。何か事故があったらしい。いるはずの無い人がいたり、いるはずの科学者がいなかったり、無茶苦茶になっている。

この小説には、いろいろな要素がみっしりと入っている。ベースにあるのは、ソラリスの海に関する膨大な蘊蓄、ファーストコンタクトについての深い考察だ。そして全体を引っ張ってゆくのは、サスペンスやミステリーの要素で、さらに、その上に、かなり痛々しいラブロマンスが描かれる。

このラブロマンスが見事で、これがあるので、ポピュラーになっているのだと思う。ソダーバーグは、このラブロマンスの所だけを上手に映画化していると聞いている(未見だが)。かなり痛々しいが、痛々しい恋愛ものが流行っている昨今の風潮からすると、正確に時代を読んでいるのだなぁ、と思う。タルコフスキーの映画でももちろん中心の一つになってはいるが、彼はそれよりも宗教的な観念や、ノスタルジーの方に強く傾いている。

ちなみに原作者のレムは、タルコフスキーの映画にも、ソダーバーグの映画にも大変不満だったそうだ。タルコフスキーとは大げんかしたとか。何が違うかというとエンディングがまるっきり違う。

読み終わってみて、久しぶりにSFを読んだ、と思った。まごうかたなきSFだ。スターウォーズのようなSF風ファンタジーの方が、SFと呼ばれることの多い最近の状況からすると、多少懐かしささえ感じる、それでいて決して古びない傑作だ。