東京ゴッドファーザーズ

今敏
東京ゴッドファーザーズ [DVD]


今敏のアニメだ。『パーフェクトブルー』『千年女優』と見て来て、どうも私にはあわない監督だな、と思っていたが、これは良かった。

今敏のアニメ映画は、なぜわざわざアニメでこんなのをやるのか、と言われてきたし、私もそう思っていた。実写のような、やたら緻密な絵、緻密な動き、さらに破天荒さの無い作風で、アニメを使う意味が感じられにくい。

アニメは、絵本と同じで、漫画が基本であり、省略の芸術というか、描いていないところの余白に楽しみがある、客の想像力の余地がある、という強みがある。描いてない所は、観客が勝手に自分の都合の良いように埋めて楽しむ。ところが今敏のアニメはどこまでも緻密に描いてあって、例えば東京ゴッドファーザーズだと、看板の一枚一枚、街路樹の一本一本まで描いてある。すると客が入り込む余地がない。すべて客の感性と一致していれば問題ないのだけれど、そんなことはないので、今敏のテイストと齟齬が生じるところが多々発生して、それが不協和音になって気になる、という感じがしていた。

それに対して、この映画では、題材をうまく選ぶ事で、上手く行っている。

新宿中央公園に棲みついている三人組のホームレスが、生まれたばかりの捨て子を拾ってしまう話だ。話は三人の掛け合い漫才風な会話や動きから、右へ行ったり左へ行ったりふらふらと進んで行く。途中、いろいろな偶然がぐるぐる巡って、雪の降る年末の東京をうろうろする。

この主人公らしからぬ3人組の薄弱な意志が、話を牽引しているのがうまく余白を作り出している。映画を見ている観客に、今見ている、その先への余白を感じさせることができている。どうなるのかなぁ、どうなってもいいなぁ、なんとかなるのかなぁ、なんともならないかもなぁ、という「ケセラセラ」な気持ちになる。

このふらふらした感じを、絵柄や映像描写のリアル感、例えば中央線が雪で止まってしまい、車中がホームレスの臭いで大変な状態になってしまうとか、そういった一つ一つの現実描写とあいまって、いい感じを醸し出している。

この映画は、実写でも作れたろうと思うが、実写で作ったらもっと薄汚れた映画になったろうと思う。またこれほどゴージャスな感じにはならなかったろうとも思う。三人のかっこ良くないホームレスが東京の街をうろうろするだけの映画なのに、ファンタジーを感じさせるのは、今敏がこだわってアニメで作った成果なのだろう。