空中庭園

角田光代
空中庭園


最近ときどきテレビで拝見する角田光代の代表作と言われている。以前から気になっていたので読んで見た。

団地に住む家族の話だ。父、母、姉、弟、と、少し離れて暮らす祖母や、父の愛人などが出て来る。表面的には現代的に、コミュニケーションも上手く行っている家族、という感じだが、実態は相当にぼろぼろだ。

森田芳光の『家族ゲーム』という傑作映画を彷彿とさせる。あれの現代版だろうか。

話は、連作短編といった形式で、それぞれの章の主人公が違う。まず姉、それから、父、母、弟、など、個々の視点から話が描かれてゆく。

よって、それぞれの主観と客観が複数の視点で描かれて行くわけだが、それが見事だ。小説という表現形式を上手に使ってあると思う。

かなりに酷いディスコミュニケーションが描かれているので、不謹慎ではあるが、面白い小説だった。しかし、読んでいて辛い。狭苦しい世界に閉じ込められたような。その意味で、今の自分が求めている小説ではない、というのを痛感した。ただ世の中には、この小説にシンパシーを感じる人は多いだろう。

この小説の舞台として、重要なキーワードになっているのが、郊外型のショッピングセンターだ。この本は、九州の田舎に帰っている間に読み、その間、私は何度も近所のジャスコに行った。その時に、小説のシーンと実際の自分のいるところが、だぶって、ちょっと、ぞくっとするほどのリアリティを感じることがあった。