あたらしい教科書 3 ことば

加賀野井秀一酒井邦嘉、竹内敏晴、橋爪大三郎
ことば (あたらしい教科書 3)


「あたらしい教科書」というシリーズが刊行されている。その第3巻が「ことば」だ。なかなかいい。大変丁寧な本作りがされている。プチグラパブリッシングという出版社は知らなかったが、チェブラーシカや北欧デザインを中心に、お洒落な本を色々出している小出版社のようだ。注目しよう。

教科書とされているが、対象が誰かは書かれていない。専門の大学生向けだと噛み砕き過ぎだし、高校生や中学生だと少し難しい部分がある、という難易度だ。ホームページを見ると「大人になって、もう一度ことばと向き合うために」と書かれていた。なるほど。

四章+付録から構成されている。各章のタイトルは、

  • 言葉から何を学ぶか
  • 言葉の謎に挑む脳科学
  • からだとしてのことば
  • 社会は「言語ゲームでできている」

となっている。

それぞれは言語学者脳科学者、演出家、社会学者が、各分野を足がかりに「ことば」について語っている。大変目配りの効いた、それでいて筆者の肉声がまだ色濃く残った文章で、大変心地よく読むことができた。

秀逸なのが欄外の脚注だ。あるページの中の言葉についての脚注は、その見開きの中に収めるようにしてある。どれも短い解説だが、実に良く書かれている。例えば、最初のページには「プレゼンテーション」「言語」「典型」「モデル」「作文」の脚注がある。また別のページには「言語生得説」「人工言語」「自然言語」の脚注、別のページには「『源氏物語』」「宗教改革」「ホルヘ・ルイス・ボルヘス」「『バベルの図書館』」「日記」「歌垣」「詩」「散文」「小説」の脚注がある。

この脚注作るのは、すごく大変だったろうな、とかつて会誌の類を作った経験から思った。もちろんすべてに脚注があるわけではなくて、要所を押さえて入れてある。この脚注を使い分ければ、かなり広範な人が読み解ける本になっていると思う。

私の場合、仕事柄、認知科学言語学に多少興味を持って来たので、書かれている内容で、驚いたというほどのものはない。多くは上手に、興味が持てるように書いてあるな、と関心した。けっこう深い。けっして上っ面をなぞった入門書ではない。

また、使ってある例や、学術的な知見が、古くさくなく現代的なのが親近感を呼ぶ。常に変わり続ける「ことば」を相手にするだから、当然そうあって欲しいが、実際はなかなか難しく、この本のフレッシュさはなかなかだ。

付録には、代表的な言語学者をかわいらしい似顔絵とともに紹介する「言語思想の変遷」、年表形式の「ことばの歴史」と、これまた秀逸なブックガイドがついている。このブックガイドのためだけでも、買う価値ありと思った。