太陽の塔

森見登美彦
太陽の塔 (新潮文庫)
第15回ファンタジーノベル大賞受賞。


太陽の塔というのは、あの万博公園にある岡本太郎太陽の塔のことだ。あの太陽の塔にはまってしまう水尾さん、という女子大生が話の重要なキーになっている。

ちょうどクリスマスのころの京都を舞台にしている。

青春小説の一種だな。雰囲気としては、『NHKにようこそ』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』に似ている。主人公たちの妄想が止めどなく流れ続ける、妄想小説だ。

相当にコミカルなドタバタ喜劇であり、解説を書いている本上まなみは(なぜに本上まなみ?、でも適任)爆笑物だと言っている。ゴキブリの話とか、ほんとすごい。実際、笑える人は多いだろうと思うのだが、実は私はあまり笑えなかった。なぜって、ちっとも誇張に思えない、私も似たようなものだったから。かなり苦笑はした、思い当たる節がありすぎて。

最初は、なぜにこれがファンタジーノベル?、と思いながら読んだが、途中に挟まれている幻想的な話がなくても、たしかに、これはファンタジーノベルだなぁ。

京都の街並がやたら微に入り細をうがった、オタクな描写で出てくる。何回か行った私でも、あぁ、あそこのことか、とわかるほど。また文体が独特で、崩れの無い文章でありながら冷たくない。けっこうカビの匂いが充満したような汚らしい話が多いのに、清潔感というか、べたべたしていないのは、この文体のおかげだろう。

現代ならではの小説だなぁ、と思う。それでいて、実は長く愛されそうな、普遍的な話でもある。しかしこの本、誰に勧めるのだろう?この話を選んだ審査員は偉いな。

なんというか味わい深い妄想小説だった。いいね。

彼は他にもいろいろ面白い小説を書いている様子、他のも読んでみようか。『有頂天家族』の評判が良いな。