黒猫/モルグ街の殺人

ポー
光文社古典新訳文庫シリーズ)
黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)


ポーの『黒猫/モルグ街の殺人』を読んだ。光文社の、古典新訳文庫、という新シリーズだ。現代語訳なので、とにかく読みやすい、読むのが楽である。

漢文調の古い訳も雰囲気があって良いのだが、現代語だとこれほど楽だとは。中身は表題作を含む短編が8つ入っている。黒猫は旧訳で読んだことがある。もっと雰囲気重視の幻想味と感じていたが、この新訳では、もっと合理的、ストーリーテリング重視の、恐怖小説であることがわかった。雰囲気重視と感じていたのは、旧訳のせいだったようだ。

訳者が解説で書いているように、どの短編も効果と構成が明快だ。現代の幻想小説がたくさんの要素がいりまじった複雑な味わいであるのに対し、素材を生かすというか、シンプルなものだ。

「黒猫」では、平然と狂気に陥ってゆく語り手(主人公)が、スティーブンキングを彷彿とさせる。ポーは、目的とする効果のために、明快な組み立てをするのを得意としていたし、そうでないと気が済まない作家だったらしい。

「モルグ街の殺人」はデュパンがでてきて猟奇殺人の謎解きをする話で、名探偵コナン君も、金田一少年も、すべて、この江戸末期に作られた150年前の小説から一歩も進んでいないことがわかる。見事にフレームワークとして完成している。

さいきん、私は自分の読書時間を、これまでよりももう少し主体的に構成したいと思っていて、そのために読書の目的をいくつか要素化してみている。その中の重要な要素が「暇つぶし」だ。

現代社会では、電車の待ち時間や、銀行の待ち時間など、システムと自分との調整をはかるための待ち時間が多数ある。この待ち時間は、何もしなければ、体は拘束されているし、時に寒すぎたり暑すぎたりして不快きわまりないが、本があれば、この不快な境遇を、楽しい読書の時間にできる。

この古典新訳文庫シリーズは、この「暇つぶし」用として最適だ。名作がそろっており、楽しみとして充分に深みがあるのは当然ながら、現代語訳で読みやすいので、短い細切れの時間でも比較的容易に作中に入れる。文庫なので持ち運ぶのも容易だ。

さて次はバタイユ、ロダーリ、トルストイ、何を手に取ってみようか。