夫婦って何?「おふたり様」の老後

三田 誠広
夫婦って何? 「おふたり様」の老後 (講談社+α新書)


近所の本屋に行ったら、ベストセラーの棚のトップに上野千鶴子の『おひとりさまの老後』という本が並んでいた。タイトルは、この三田の本のパクリだな。しかし、おひとりさまの老後についても、もちろん色々と考えておくべきことは多いだろう。こっちは二人用、飛行機に乗る時に、羽田で買った。さすがに小説家だ。読ませる。

これから「おふたり様」がどんどん増えてくる。おふたり様、というのはレストランに夫婦二人で行くと、「おふたり様ですか?」と聞かれる事による。日本のこの50年の変化の一つの現れとして、核家族社会を牽引して来た大量のおじさん、おばさんが、「おふたり様」になるというのがある。子供が巣立つ時期や、退職年齢はあまり変わらないが、寿命が伸び、親戚とは離れて暮らしているため、長い「おふたり様」時代が訪れる。

三田は、特に男性に対し、考え方を根本から変えよ!、と警鐘を鳴らす。定年退職し、毎日が日曜日になって、部屋着のままでごろごろし、テレビを見ながら、昼飯はまだか、お茶、と言う。外に出るでもなく、家事を手伝うでも無い。そんな老人と、死ぬまで数十年も一緒に生活しなければならないとしたら。三田の描写はあえて単純化しているが、本質を捕まえて明快だ。さてどうする。

三田は家で小説を書く作家なので、おふたり様の先輩として、また自称達人として、この本でいろいろなノウハウを伝えている。具体的には本屋で立ち読みして頂ければと思う。

つい先日、出張のついでに実家に行き、父母と過ごした。母は社交ダンスの先生として、ほぼ毎日どこかで踊っている。父は父で、母の毎日の送り迎えと、老人会、ゴルフ会、町内会などの世話で、意外にも忙しそうにしていた。彼らは偉いよ。

振り返って私はどうかと考える。今は娘がいるが、遠からず「おふたり様」になる。私はご存知の通り趣味に不自由はしていないが、せっかくだから、やりがいのある、愉快な日々を過ごしたいものだと思う。

なお老後で気になることの一つに先立つもの、金がある。年金問題はいっこうに収まりを見せる気配がない。次から次に物の値段が上がり始めているのに、給料は上がらない。貯金は目減りするのが当たり前で、かといって投資信託や外貨預金で大損をした人もゴロゴロしている。

この本では金の問題はあまり取り上げられていない(インターネットの危険性に関する項目ぐらい)。一つは金以前に人間関係が破綻しては生きている意味が無いからだが、もう一つは著者が金に困っていないからだろう。

私の老後に対する考えは、「貧乏くさい」スタイルに、自分の生活と価値観をうまくシフトしてゆくことだと思っている。別名、自然派ロハス、エコライフ、スローライフとも言う。うがった見方をすれば、これらはいずれも「貧乏くさい」スタイルを、いかに格好良く、お洒落にするかということだ。物を買わないスタイル、エネルギーを使わないスタイル、ごみを出さないスタイル、マスメディアに依存しないスタイル、友人・知人とのコミュニケーションに楽しみを見出すスタイル、楽しい時間つぶしを安上がりにできるスタイルだ。

私は、今後の日本人のライフスタイルには、二つの流れがあると考えている。一つは、リスクを楽しんで、積極的に打って出て、成功と失敗の両方を感受しながら生きるビビッドなスタイルである。もう一つは、世界の長期の潮流にゆったりと乗って、リスクを最小に、しかし大きな成功もあきらめたナチュラルなスタイルだ。いずれにしろ、自分の身近の小さな社会、組織のみを見て、そこでのバランスに最大限の努力を払うことで、安心した老後を得るという、これまでの日本人の主要なライフスタイルは終わったと思った方が良い。

ビビッド派であれ、ナチュラル派であれ、広い世界に対する視野を持つことは必須である。その広い視野を持つための、安心できる土台として、おふたり様の基礎を見直すことが今求められている。