グッドラック 戦闘妖精 雪風

神林長平
戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)
グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)


第1作は日本SF史に残る傑作だと思う。初期の神林の特徴を表して表現がストイックで簡潔、それぞれの話も切れよくまとまっている。フェアリィ星上に限定して空中戦だけの戦闘という極めて特殊な環境を納得できる設定も見事で、テクニカルタームジャーゴンにまみれながら比較的取っ付きやすく、エンターテインメントになっている。私のファンタジーの師匠がチミー永田だとすると、SFの師匠にあたる野中という友人が学生時代に好きだったのを思い出す。彼はいまは川重でジェットエンジンの熱設計などをやっているが、まさに彼好みのSFだと思う。

ジェット戦闘機である雪風は、自動戦闘モードを持っていて、かなり知的な処理ができる存在である。ただし鉄腕アトムのように喋ったり、人間にわかる文章を綴ったりしないため、行動によって婉曲的に知性が描かれるという点もリアルで、スタイリッシュである。

そしてグッドラックの方は、たしかに同じ話の続編なのだが、描き方がまるで違う。登場人物たちが実に饒舌に喋りまくる。ほとんど会話だけで終わる回もあるほどだ。戦闘シーンもかなり少なく、この小説は戦争小説だったっけ、思弁小説か、と思わせるほどだ。前作が具体的な戦闘の中で、徐々に様々な要素が明らかになってゆく話だったのに対し、こちらは明らかになった要素がからみあって混沌とした中でもがく話である。

ジャムという宇宙人(?)と戦争をしているのがフェアリィ空軍(FAF)なのだが、実際にはジャムは、人間と戦争をしているとは思っていなかったらしいとか、SFならではの架空設定での思考実験がなされる。そうするとジャムとの戦闘に人間は必要なのか、技術面から、また道義的な面から、といった話が延々と続けられる。

それでも読み終わってみて、グッドラックもなかなか面白いと思えた。エンターテインメントとしてはかなり弱いと思うが、SF小説の面白さという面から見ると傑作である。


2003/11/29
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