モギ ちいさな焼きもの師

モギ―ちいさな焼きもの師
リンダ・スー・パーク


原題は"A Single Shard"です。たった一つのかけら、でしょうか。私は、この原題を知った時、物語全体のあのシーン、このシーンが溢れ出てくるのを感じました。

12世紀の韓国の話です。日本で鎌倉幕府ができたころです。橋の下でくらす少年が主人公です。彼は老人と一緒に暮らしており、とても貧しい暮しをしています。ただ心は貧しくない。うらやましく感じるほど清々しい倫理観のもとで生きています。彼らが暮らしている村は、韓国でも有数の焼きものの村、高麗青磁の産地です。話は少年が村でも指折りの焼きもの師と出会うところから始まります。

ハウルを読んだ後、ネオ・ファンタジーのケバケバしさに疲れてしまい、ゆったり、しっかりした文章、話が読みたくなりました。そこで教文館ナルニア国で購入したのがこの本です。今年の夏の課題図書の一冊です。そして、私の期待に十二分に答えてくれる質の高い児童文学でした。

まず文章がいい。ニューヨーク在住の著者が、英語で韓国を舞台に書いた本を、日本語訳で読んでいるというのに、そういった言語ギャップをまるで感じさせない自然で練れた文章です。買ってすぐ帰りの小田急線で読み始めたのですが、すーっと物語世界に入って、周りが見えなくなりました。

手仕事のすばらしさ、その奥深さ、それと一体化した人生観、倫理観がだれにでもわかる平明な言葉で書かれています。例えば、本のちょうど真ん中あたりに、少年が粘土を濾す作業の中で、指先に粘土の滑らかさの違いがわかるようになる瞬間が書かれています。このシーンは見事です。どんな仕事にも通じる「会得」の妙を、森の中の鹿を見つける比喩で描いています。

それと、韓国の生活や、焼きもの造りに関わる道具や作業など、一つ一つのディティールが浮ついておらず、細かく描かれているのが話を引き締めています。マニアックにならず、かといって抽象的、架空的にならず、説得力があります。

どの登場人物も良く、とくに一緒に暮らしている老人が魅力的です。片足しかなく、赤貧であるのに、ユーモアがあり、凛としていて、少年にしっかりと相対しているのが読んでいて安心感を与えます。

娘も読みたがっていたので、彼女がどういう感想を持つのか楽しみです。暑い夏を涼しくする良い本に出会いました。