職人暮らし

原田多加司
職人暮らし (ちくま新書)


古いお宮など、歴史的建造物の屋根を「葺く(ふく)」職人の親方である原田氏が、土木関連の職人の仕事、生活などを書いた本である。

彼が書いているように、今は一種、職人ブームといった状況で、たくさんの本が出ている。しかし実際に職人が書いた本は少なく、どれも世間が求めるステロタイプになってしまっている、と私も思う。

この本は新書であることもあって、情報としては浅いが、なかなか現場の状況を的確に伝えていて、興味深いと思った。桧皮葺き職人というのが、現代の、どういう経済的環境で生きながらえているのか、その賃金カーブは、といったことから、戸塚ヨットスクールのようなつもりで、茶髪の息子をつれて来て職人にしてくれ、という親の話とか、履物に糸目をつけず粋を極める先先代の話など、職人とは言え、私たちと同じ、この現代社会に生きているのだな、と当たり前のことを感じた。

私は職人ではないが、五感を使った仕事、というのがいいと思う。人間のなりたちからいって健康的である。私の仕事では、頭と目と、口ばかりを使う。手はキーボードやマウスを扱うばかり、皮膚感覚にいたっては、ほとんど使っていない。だから、少し体を動かしたり、動植物や、樹木や水など自然物に触れると、あまりの新鮮さに驚きを感じる。そして自分の脳みそが、それを喜んでいるのがわかる。

職人に憧れる人が多いというのは、そういった現代の社会環境、仕事環境のアンバランスさ、にもよるように思う。