老人とカメラ -散歩の愉しみ-

赤瀬川原平 あいかわらず写真を撮るのが好きだ。まぁ、それでも、重たいカメラを担いで撮影しようという気には、もうなかなかなれない。小さなデジカメをポケットに入れて散歩するのがせいぜいだ。でも、愛用のHEXARを持ってゆけば、写真を撮るのはずっと楽…

生物と無生物のあいだ

福岡伸一 今年(2007年)の新書界でのニュースともなった一冊である。面白い上に、深みがあり、色々な事を考えさせられる。バイオ関連の専門的な内容が盛り込まれているが、かなり間口を広く、敷居を低くしてあるので、科学に興味のある人なら理解し、読み通せ…

[Movie] フラガール

李相日 これは良い映画だなぁ。私の中で印象の近い映画は『スウィングガールズ』『ウォーターボーイズ』『シャルウィダンス』『ピンポン』あたりかな。どれも好きな映画だ(みんなカタカナなのは偶然の一致か)。常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイ…

幼年期の終わり

アーサー・C・クラーク (光文社古典新訳文庫) 池田 真紀子 (翻訳) 光文社古典新訳文庫の最新リリースとして、『幼年期の終わり』が刊行された。私が最初に『幼年期の終わり』を読んだのは、たしか高校生の時で創元の沼沢訳だった(Over Loadが上主と訳されて…

鬼怒川 東武ワールドスクエア

10月の半ばに鬼怒川に職場のみんなで行った。ライン下りで船に乗ったが、なかなかいいもんだな。まだほとんど紅葉していなかったが十分な景観だった。動力が無い船なので水の上をすいーっと走る。モーターボートや車などの強引さがなく気持ちの良いものだ。…

もやしもん

石川雅之 東京農大の厚木キャンパスを彷彿とさせる、「某農大」が舞台のコメディで、北大獣医学部が舞台の『動物のお医者さん』にポジションが近い。沢木という新入生が主人公。彼は種麹屋という、醤油や味噌、酒などの麹を作る家の息子だ。ただ特殊能力があ…

世界最速のインディアン

ロジャー・ドナルドソン アンソニー・ホプキンス主演の実話をもとにした映画だ。大画面でゆったりもう一度見たいと思った。良い映画だ。インディアンというのはオートバイの名前で、アンソニー・ホプキンスがインディアンというわけではない。彼は、ニュージ…

ローマ人の物語『終わりの始まり』29巻〜31巻

塩野七生 この巻は、五賢帝の五人目、マルクス・アウレリウスから語り始められている。塩野氏が上手いのは、どの本を読んでも、その本で取り上げられている人に興味を抱かせるという点だ。ローマ「人」の物語、と言う通り、人が中心の歴史物なんだな。ハドリ…

「青山二郎の眼」展

http://www.fujitv.co.jp/events/art-net/go/462.html 白洲信哉 白洲信哉というディレッタントがいる。モーツアルト似のぎょろっとした眼で、俳優といっても通じる雰囲気の男だ。1965年生まれ。彼が、講談社の『最高のサービス』というムック本で、血統の良…

「日展100年」展

国立新美術館 完成してから一度は行ってみたいと思っていた国立新美術館を妻と訪れた。地下鉄千代田線の乃木坂駅から、館内へ直接入ることができ、大変交通の便が良い。国立新美術館は、東京大学生産技術研究所の跡地で、さらに戦前は陸軍の兵舎だったそうだ…

パプリカ

筒井康隆 私の友人に、素面のときは大変にこやかで真面目な紳士だが、酒が入ると驚くほど雄弁に卑猥な妄想を語る人がいる。その妄想を聞きながら、なんだか懐かしいな、と思っていたが、そうだ筒井康隆の小説がまさに妄想小説だったのだと思い出した。今敏が…

攻殻機動隊 Stand Alone Complex - Solid State Society

神山健治 NHKで放送された『精霊の守り人』の監督である神山健治が、その製作に入る直前に作ったのが、この攻殻機動隊 SAC-SSSだ。SACのファンには大変評判が良かったので、見てみた。結論から言う。面白かったが、そう騒ぐほどのものではない。製作費に3億6…

ぼくらの七日間戦争

宗田理 初版発行は1985年だ。1985年といえばバブル、トピックを列挙すると 北の湖、柔道の山下が引退 夏目雅子が死去 8時だよ全員集合終了 つくば万博 電電公社がNTTに 専売公社がJTに 芦屋市幼児誘拐事件 ゴルバチョフ書記長就任 東北新幹線の大宮--上野間…

神童

さそうあきら 八百屋の息子で、音大浪人中の和音(ワオ)が、野球が好きな小学生の天才ピアニスト「うた」と出会って、共に成長する漫画だ。うたが、八百屋でリンゴを選んでもらっている。ワオの親父がリンゴを指で弾いて、これがうまいと薦める。ワオも指で弾…

ドミノ

恩田陸 夏になると各出版社が夏休み向けに文庫フェアを開始する。すでに読んだ本、名作だが読んでない本、昨年話題になった本などいろいろ並んでいて、セレクションにこめられた各社の狙いが見えて面白い。集英社は『こころ』『銀河鉄道の夜』『友情』の表紙…

豆つぶほどの小さないぬ

佐藤さとる 私は佐藤さとるの書く話が大好きで、出版されている本はほとんど読んでいる。ファンといってもいいかもしれない。ファンというのは、往々にして「あばたもえくぼ」に陥りがちで、この文章も割り引いて読んでいただいた方がいいだろう。彼の代表作…

エラントリス 鎖された都の物語

ブランドン・サンダースン 中三の娘から面白いから読んでみて、と言われて、多少しぶしぶ手に取ったハヤカワFTだ。読んでみて娘を侮っていたことに気付いた。軽いライトノベル風の異世界ファンタジーだと思って(タイトルからして、そんな感じ)読み始めたの…

グラン・ヴァカンス ―廃園の天使(1)

飛浩隆 残酷であることが、良いことであるかのような著者の姿勢には、全く賛同できない。これを喜ぶ読者が多いだろうことも充分理解できるが、いただけない。それを除けば、大変良く出来たエンターテインメントだと思う。暴力・残酷・エッチな描写をふんだん…

おおきく振りかぶって

ひぐちアサ 『おおきく振りかぶって』の8巻までを一気に読んだ。西浦高校という公立校に発足したばかりの1年生だけの硬式野球部の話だ。主人公のピッチャーの性格が弱弱というのは珍しい。この漫画の特徴は、登場する野球少年たちがヒーローからほど遠いと…

えいご漬け

任天堂 ニンテンドーDSの『えいご漬け』にはまっている。 http://touch-ds.jp/mfs/eigozuke/ これ面白い。録音されている英文を聞いて、それを書き取るという、基本的にそれだけのお勉強ソフトだ。おまけにクロスワードやアクションゲームも入っているが、メ…

天と地の守り人

上橋菜穂子 『天と地の守り人』を読み終わったのは、しばらく前なのだけど、ちょっと言葉に表しづらい「もやもや」があって感想を書けずにいた。面白かったけど、やはりひっかかる。手放しに喜べない。充分に楽しませてもらった。特に2巻は良かった。2巻のテ…

ルリユールおじさん

いせ ひでこ 娘が小さいころは絵本をたくさん買っていた。その娘も中三で、最近は絵本は買わない。その娘が、ついおとといぐらいに、昔の絵本を取り出して読んでいた。そして「とても怖かった本が、怖くなくなっていた。でももう読みたくない」とか、「やっ…

ことばとあそぶ おととあそぶ

玉川上水にあるロバハウスに、家族でコンサートを見に行ってきた。多摩モノレールの玉川上水駅から、川縁の遊歩道を少し歩いた川のほとりに、ロバの音楽座の本拠地、ロバハウスがある。村山雄一設計の丸みを帯びた、不思議な小屋だ。お客さんは満員、70名ほ…

映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』

松岡錠司 座席は満席だった。観客は高齢者ばかり。老夫婦も多い。泣かせる映画ではなかったので私としては助かった。泣かせる映画を期待した人は肩すかしを食うだろう。オダギリ・ジョーは、なかなか良かった。役所広司を彷彿とさせるアクの無い演技だ。とき…

物語の遅効性の力

前回の「物語の力」の話は、良くわからないままに書き連ねてみたのだが、頂いた反応を聞いている内に色々と気づかされた。続けて少し書いてみよう。物語には、すぐ効く成分と、ゆっくり時間をかけて効く成分の二種類が入っているということだろうか。風邪薬…

リッジレーサー4

ナムコ 光文社の古典新訳文庫『カラマーゾフの兄弟』を読んだ。すさまじい小説だ。登場人物が誰彼なく、ぎゃあぎゃあ喋るのがうるさいったらありゃしない。頭の中がわんわんいいそうだ。なんだか荒れ海を渡る船に無理矢理載せられたような、強靭な力でぐいぐ…

カラマーゾフの兄弟

ドストエフスキー

バッテリー VI巻(最終巻)

あさのあつこ 今日はあたたかで天気もよかったので、昼休み、近くの川縁まで散歩に行った。途中で本屋に寄ったら、『バッテリー』のVI巻(最終巻)が文庫で出ていたので、買い、先ほど読み終わった。終わったなぁ。このシリーズは面白かった。楽しませてくれ…

一角獣・多角獣

シオドア・スタージョン 復刊された異色作家短編集の一冊を手に取った。『人間以上』のスタージョンが短編の名手であることは有名だが、その中でも長らく復刊がまたれていたのが本作である。この本が日本に登場したのは私が生まれた年だから、なんとすでに40…

富本憲吉展

気になっていた富本憲吉展に妻と行ってきた。近所の世田谷美術館で開催されていた。以前、京都で開催されたものが巡回してきたものだ。世田美の後は、岐阜と萩だそうだ。生誕120年ということで、若き日の作品から、代表作の多くまで勢揃いしている。充実した…